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3 犬は、理解できなかった
どうも、犬だよ。
ボクのいた家には、小さな人間の子どもがいた。聞き分けの悪い子で、よくボクの尻尾を引っ張った。辞めろと言っても聞かなくて、怒るとぎゃあぎゃあ泣いたんだ。その声のほんと、うるさいったら。ボクは、その子どもが嫌いだったよ。
人間の子は成長が遅くて、一人で歩けるようになるまで随分と時間がかかった。そのくせ、歩けたら歩けたでそれはそれは厄介だった。自由気ままに歩き回るもんだから、たまったもんじゃない。主人がダメだと言っても聞き分け悪く、意地でも危ないところまで入り込んでった。ボクも、見ていて気が気じゃなかったよ。
いっそ、放っておいてもよかったんだけどね。主人がボクを信じてくれてたから、ボクは仕方なく面倒を見る羽目になった。そうしたらあるとき、あの子どもが外に出てしまったんだ。よその犬を追いかけて、断りもなくフラフラとね。
ボクは慌てて探したよ。けど気づくのが遅れて、子どもは泣きながら道路に座り込んでいた。すぐ近くには人に飼われていない犬がいて、今にも噛まれそうになっていたんだ。ボクはもう、なりふり構わず飛び出して吠えたよ。今まで出したこともない、低い唸り声で追い払ってやったさ。
間一髪、その犬に噛まれるのは阻止できたけど、どこかまだ痛むのか子どもは、ぐずぐずと泣いてずっと動かないままだった。いつものぎゃあぎゃあした泣き方じゃなくて、肺を震わせるようなすすり泣きをしながら、ボクをじっと見てた。
……そのとき、気づいたよ。
動けないのはその子どもが、ボクに怯えていたからだってことにね。そりゃあ、自分と違って相手を仕留める武器を、ボクらは持っているもの。怖いよね。ボクだって、あんなまるまるとした足腰のおぼつかない子どもだったら、きっと怖いと思うよ。
主人たちもすぐにやって来て、子どもを抱きかかえて一緒に泣いた。泣きながら何か話してたけど、ボクにはわからない。ただ、子どもがボクにずっと怯えてたから、主人はボクが何かしたように思ったかもしれない。それが恐ろしくて、ボクはずっと下を向いてた。
主人たちが家に帰るのを見て、怒られるかなって思いつつそっとついていった。けど、家に入るのだけはできなかった。
その……ほら、子どもがボクのせいで泣いたら耳障りだもの。わかるでしょう?
そうしたらね、その夜に、主人が子どもと庭にやってきたんだ。二人で一緒になって、ボクを抱き締めてくれたの。わけがわからなかったよ。
子どもが主人に、何か言ってくれたのかな?って思った。あんなに怖がっていたのに、ボクのために?どうして?
よくわからないままだったけど、それでもボクは許されたらしく、そのまま家にも招き入れてもらえた。隅っこにいたかったけど、子供にお尻を押されて、ベッドまでお呼ばれされよ。それでね、子どもが、もうしなくなったと思ってたのに、ボクの尻尾を掴んで寝たんだよ。
……参っちゃうよね、ほんと。
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