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5 犬は、伝えたかった
こんにちは、犬です。あっちにいるのはうちの家族である人間です。飼い主とはちょっと違うのかもしれないけど、大事な人間です。
実は我々、ずっとあの人間のお世話になっています。本当はここには、もっと他にも人間がいるんですけど、とびきり気にかけてくれるのが彼女なんです。彼女は犬が好きで、優しいんです。
彼女を大切にしなきゃなぁって思ったのが、うちの子がよそへ貰われていくときに、ボロボロと泣いていたときですね。
家族を大事にしてくれる人間のところへ行くのだから、悪いことじゃないはずなのに、彼女は我々を一匹ずつ抱き締めて、家族を離れ離れにしてごめんね、といつも謝るんです。
子どもは大きくなったら、独り立ちするものでしょう?なのに、彼女が我が事のように泣くものですから、我々はせめて、彼女の力にならねばと思うんです。そんな彼女がね、あるとき、我々の見えないところで、一際悲しくて泣いてたみたいなんですよ。
我々の悲しみには寄り添ってくれるくせに、我々には心配をかけまいと、あの子は一人で、泣いていたんです。隠れてたってわかりますよ、大事な家族ですもの。
もしかすると、大切な人との別れがあったのかもしれない。よそへ貰われていった我々の家族に、何かあったのかもしれない。けれど彼女が話さないのであれば、我々は聞くことすらできませんの。
……ねえ、泣いたって良いじゃないですか。我々がついてますよって、いつだって全身全霊、伝えているでしょう。勿論、彼女に伝える言葉なんてものは、犬にはありません。
けれど、彼女はいつだって我々の想いをくみ取ってくれますから、きっとわかってくれてるはずなんです。どうして、一人で苦しむことがあるんです。
我々はあなたを決して、一人にはしませんから。どうか、我ら家族に隠れて、苦しみを抱えることがありませんように。あなたの家族からの、大切な願いです。
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