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「部長、この書類の決裁お願いします」藍は書類を受け取り未決BOXに入れ相手を見上げる。 椅子に座ったまま見上げると瀬奈の体格の良さが一際(ひときわ)分かる。 瀬奈涼 初めて彼が営業企画室に来た時はまだ初々しさが残る好青年という印象だった。 藍も身長が高い方だが、その自分が見上げるほどの高身長とスーツの上からでも分かる均整のとれた筋肉質が彼の体格の良さを物語り黒髪で短めのツーブロックにした髪型がキリっとした彼の目元によく似合っていた。 握手した時の手の大きさに驚くと共に、彼のこれからに期待を込めて挨拶を交わした。 瀬奈は仕事への意気込みはもちろん、何事も吸収が早く頭の回転が速い。素直な性格も相まって部署の皆から可愛がられグングン成長して行った。 いつの間にか部署のエースとして頭角を表し藍自身も瀬奈を頼るようになっていた。 「美輪さんお昼行きましょう」 次第に瀬奈と昼食を一緒にとる事が当たり前となり夜も一緒にすごす機会が増えていった。 互いに食の好みも似ていた事もあり営業で訪れた先で店を開拓するのが楽しみとなっていた。 弟がいたらこんな感じだったのかな。 藍は幼い頃に両親が離婚した事もありひとりっ子だった。父親と2人、割と裕福な家庭だったように思う。 ただ、藍はその美しい外見から幼少期から苦労が絶えなかった。幼い頃に連れ去られそうになった事は数知れず常に人の視線に晒される日々だった。 藍が中学生の時、クラスの担任が藍を自宅に連れ去る事件が起きる。 担任は藍も自分に気持ちがあり同意の上だと主張したらしいが藍自身は全く身に覚えがなく学校自体行く事が出来なくなった。 担任は自分と同じ男性。 なのに自分は何故こんな目に遭うのか。 藍にとってそういう対象に見られる事は理解出来なかった。 藍の精神状態を心配した父親は、アメリカにいる祖父の元へ藍を送り出した。 祖父は(こころよ)く藍を引き取り、自由な国アメリカで藍はゆっくりと自分を取り戻していく。 周りの環境や人と接する事で少しずつ固定観念を変えるようになっていった。 人が人を想うのに性別など関係ないのだと。 それでも 藍自身はそういう視線にはやはり慣れず受け入れる事は難しかった。
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