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「この前はありがとう。」 藍は体調も良くなり、この前の件も含めお礼をしたいと瀬奈を食事に誘った。 「美輪さん。今日はお疲れ様の会でしょ?謝罪は受け取りませんよ」瀬奈は大ジョッキでビールを飲んでいる。 「でも迷惑かけたし、それに嫌な場面見せたから。嫌だったでしょう?あんな、、、」藍は思わず言葉に詰まる。 今までは言葉で誘われる場面を見られる事はあっても、あんなにあからさまな性的な雰囲気を見られた事などなかった。 藍はじっと手元に視線を落とす。 瀬奈には知られたくなかったな。 「確かに。胸糞悪かったですけどね」瀬奈はそう言うと一気にビールを飲み干しドンと机に置いた。 「だよね。ごめん。男に言い寄られてる場面なんて気持ち悪いよね」藍は苦笑いで言葉を告げる。 部下にあんな場面見られて助けられるなんて。 藍は顔も上げれず視線を手元に向ける。 瀬奈の目を見る勇気もなく、そこに嫌悪の眼差しが見え隠れするのではないかと怖かった。 「美輪さん」 いつもの藍を呼ぶ優しい声がし、藍はおもわず顔を上げる。 「俺が胸糞悪いのは、あのバーコード眼鏡が美輪さんに触れていたからです。」瀬奈は真っ直ぐに藍を見てめている。 「バーコード眼鏡って」あの時の相手の頭の部分を鮮やかに思い出し藍はふふっと笑う。 「美輪さん」瀬奈が藍の手にそっと触れる。 「俺は、男でも女でも誰にも美輪さんに触れて欲しくないんです。」 瀬奈がギュっと藍の指先を握る。 「俺は美輪さんが好きです。」 「俺も瀬奈の事は好きだよ」藍は瀬奈に微笑む。 「違います。俺が好きなのは貴方に触れたいって意味です。」 「え?それって」藍は頭が働かず思考が停止する。 「すみません。言うつもりはなかったんです。でもあんなギラついた親父に貴方が汚されるのは我慢なりません。 でも、そういう目で見てる自分も同じだとさっき自覚しました。なので、美輪さん。仕事以外では近づかないようにします。俺はそういう自分も許せないので。」 そう言うと瀬奈は数枚お札を置いて席を立った。 「明日からは部下としてまた宜しくお願いします」そう頭を下げる瀬奈をぼんやりとしたまま藍は見送った。
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