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あれから瀬奈は業務以外では藍との間に一線を引き、宣言通り仕事以外での関わりはなくなった。
藍はぽっかりと空いた空間を紛らわすように昼食も取らず黙々と仕事をこなす。
瀬奈に誘われるまでは昼食を抜いて仕事をする事も多かったため元に戻っただけの話だ。
「美輪〜。お昼行こう!」同期の永瀬が藍の肩を叩き連れ出す。部署を出ると珍しい人物がいた。
「松本、久しぶり」藍は笑顔で松本を見る。
「久しぶりの美輪の笑顔は目に眩しい」とグルンと顔を回される。
「ちょっと、やめてよ。首痛い」藍は松本の手を跳ね除けながら睨む。
「お前ね、むやみに笑顔振り向くなって永瀬にいつも言われてない?久しぶりに見ると破壊力エグいからキツいわ」松本は目を閉じて頭をブルブル振っている。
相変わらず何言ってんだか分からない。
藍は松本を理解するのを諦め永瀬の隣を歩く。
「美輪、ちょっと痩せた?」永瀬は藍を見ながら眉をしかめる。
「あ〜昼忘れる事多くて」
「また〜?あれ、でも番犬君は?よく一緒に食べてなかった?」
藍は永瀬の言葉に返す事なく、曖昧な笑顔を浮かべ社食のフロアに向かう。
今日の日替りランチはグラタンに唐揚げか、、、。
気持ちが乗らずにワカメうどんを注文する。
永瀬はグラタン+デザート。松本は唐揚げ定食にご飯大盛り。
2人とも細いのによく食べるな。そんな事を思いつつ席を探す。
ふっと目の端に短髪の黒髪が目に入る。
瀬奈だ。
「あれ〜?番犬君じゃない。」永瀬も瀬奈に気づいたようだ。「番犬?何だそれ」松本が永瀬に説明を求め2人が話し始めた。
藍はじっと瀬奈を見つめる。
誰かと向かい合って食べているのだろう、何やら相手が乗り出して瀬奈に話しかけている。
ふいに向かいの女性が瀬奈の頭に触れ、その手を瀬奈が捕まえたように見えた。
ズキ。
ん?何だ。
何か痛い。
どこが痛いと聞かれたら分からないがズキズキと胸のあたりが軋むような感覚がする。
頭を傾げつつ瀬奈の方に視線を戻すと、ふっと彼が笑っているのが目に入った。優しい眼差しで笑う彼の顔はいつもよりも柔らかいもので、藍は思わず目を逸らす。
ズキズキと痛む胸の奥が何なのか分からないが、とにかくここから離れようと瀬奈に背を向けて離れた。
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