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「この前はありがとう。」
美輪がどうしてもお礼をしたいと譲らないので、涼はコンペの打ち上げならいいですよ。と美輪と2人小料理屋を訪れた。
この店は料理も酒も美味く価格も手頃なので、涼もたまに利用している店だ。
道路から少し離れた場所にあり周りも静か。
区切られた小部屋もあり落ち着いた雰囲気で過ごせる点も気に入っている。
「美輪さん。今日はお疲れ様の会でしょ?謝罪は受け取りませんよ」涼はビールを片手に美輪に告げる。
「でも迷惑かけたし、それに嫌な場面見せたから。嫌だったでしょう?あんな、、、」美輪は言葉に詰まる。
涼はビールを飲みながら視線は美輪に向ける。
いつも涼やかで凛々しい顔が辛そうに眉間に皺を寄せている。
「確かに。胸糞悪かったですけどね」涼は一気にビールを飲み干しドンと机に置く。
「だよね。ごめん。男に言い寄られてる場面なんて気持ち悪いよね」美輪は手元に視線を落とす。
静けさが美輪と涼の間に漂う。
「美輪さん」
涼は真っ直ぐに美輪を見て答える。
「俺が胸糞悪いのは、あのバーコード眼鏡が美輪さんに触れていたからです。」
「バーコード眼鏡って」ふふっと美輪は笑う。
「美輪さん」涼は美輪の手にそっと触れる。
「俺は、男でも女でも誰にも美輪さんに触れて欲しくないんです。」
ギュっと美輪の指先を握る。
「俺は美輪さんが好きです。」
「俺も瀬奈の事は好きだよ」美輪は涼に微笑む。
「違います。俺が好きなのは貴方に触れたいって意味です。」
「え?それって」美輪は言葉に詰まる。
「すみません。言うつもりはなかったんです。でもあんなギラついた親父に貴方が汚されるのは我慢なりません。
でも、そういう目で見てる自分も同じだとさっき自覚しました。なので、美輪さん。仕事以外では近づかないようにします。俺はそういう自分も許せないので。」
涼は数枚お札を置いて席を立つ。
「明日からは部下としてまた宜しくお願いします」そう頭を下げて店を出た。
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