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「あ、そうか。番犬いるもんね」永瀬は最後の唐揚げに手をつけ嬉しそうに食べている。
「番犬?」
「そう。企画室の番犬。瀬奈君だっけ?あの大きい子」
「瀬奈は大きいけど。何?番犬って?」藍は横を向き永瀬を見つめる。
「美輪、無駄にそうやって綺麗な瞳でジッと見るから相手が勘違いしちゃうんだよ。直視するなっていつも言ってるでしょう?本当、無駄に顔面強いんだから」永瀬は藍の顔に手のひらを向けて見るなとジェスチャーする。
「番犬じゃん。彼。美輪の側にピタっと付いてるし周り威嚇してるじゃない。私見た事あるよ、美輪にしつこく言い寄ってた社長いたじゃない?ほらアプリ会社の」永瀬は手を合わせてご馳走様でした。と食事を終えた。
あぁ。あの人か。
同時通訳する通話アプリを開発した割と有名な会社の社長と仕事上関わる事があり何度か会った事があった。
彼はバイセクシャルを公言しており、藍に対しても分かりやすく誘いをかけていた。藍からすると誘い方もサラっとしていたので断り易く特別神経を使う相手でもなかった。
「うちで打ち合わせした時にさ、瀬奈君とその社長が話してるのたまたま聞いたのよ。
美輪を誘うのは辞めてください。仕事に支障をきたすのが美輪は1番辛いんです。もしどうしても諦められないなら仕事での付き合いが終わってからにしてくれって。でないと美輪も立場上苦しいからって。
彼、堂々と言ってて立派だったよ。社長も瀬奈君の態度に圧倒されたのか了承してたし。」
永瀬は「番犬できて良かったね」と告げ先に戻るわと席を立った。
藍は永瀬に手を振りつつその時の事を思い出していた。
確かにある時からパタッと誘いはなくなり、相手会社とのプロジェクトが終わり改めて口説かれた記憶がある。
仕事上の関係が終わった事もあり相手に言い易く丁重に断りをいれてその時は終わったのだ。
そうか。
瀬奈が。
藍は瀬奈を思い出しふっと笑う。
番犬って。
確かに体はそうかも。
ふふふっ。
社食のフロアで微笑む藍を眼福と拝みながらひっそり見ている社員がいる事にも気づかず藍はしばらく笑っていた。
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