8人が本棚に入れています
本棚に追加
「豚バラー、豚バラー、今夜は豚バラー」
帰り道。
よほど晩御飯がお肉であるのが嬉しかったのだろうか。
マイバックに詰め込んだお肉パックを胸に抱きかかえながら愛美は謎の歌をうたっていた。
時折、道で出くわすノラ猫を「シャー!」と威嚇している。
「豚バラー、豚バラー、豚バラオッレー!」
それにしても歌詞がダサい。
今時、オッレーはないだろオッレーは。
なんて歌なんだ。
「豚バラオッレー!」
俺は耐え切れなくなって愛美に聞いた。
「ねえ、それなんて歌?」
ピクッと愛美の頭の耳が動く。
「ふふ、知りたい?」
「いや、特に知りたいってわけじゃないけど……」
「ふむふむ、私のあまりの美声に酔いしれたか」
「酔いしれてもないけど……」
「まったく、しょうがないなあ陽太は。いいよ、特別に教えてあげる」
「ごめん、聞いておきながらなんだけど1ミリも興味ないや」
「まあまあ、聞きなさい。この歌はねえ『豚バラの歌』っていうの!」
まんまじゃないか。
愛美のセンスの悪さは一族の中でも一級品だ。
「そっかあー、『豚バラの歌』っていうのかあー」
「そ。『豚バラの歌』。豚バラー、豚バラー、今夜は豚バラー……と牛ロースー」
種類が増えた。
けれども彼女はまったく気にせず『豚バラの歌』を口ずさむ。
俺は苦笑しながら彼女の手を握った。
彼女もニコリと微笑んだ。
柔らかな肉球が、とても心地いい。
最初のコメントを投稿しよう!