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「はい、質問です! 私は今、何を思っているでしょう」
あどけない瞳に見つめられて、そんな問いをかけられた俺は
「はい?」
と答えるしかなかった。
隣を歩いている愛美が、急に立ち止まってそんなことを言い出したからだ。
「ヒントはねえ。今はポカポカ陽気でとても気持ちのいい時間帯です」
彼女は手を後ろに組んでいたずらっぽく笑っていた。
ヒントがあまりヒントになっていない気がするのは、俺がバカだからだろうか。
「ごめん、言ってる意味がわからない」
「ええー、わからないの? 私が大好きなことだよ?」
「ええと……。お腹すいたとか?」
俺の言葉に、彼女はムッと口をとがらせた。
「ちーがーうー! 日向ぼっこしたいって言ってるのー!」
愛美はそう言ってポカポカと俺の胸を叩いてきた。
一種の癖みたいなもので、昔から彼女はこうだった。
「追いかけっこしようよ」
「なにか甘いもの食べたーい」
「このおもちゃ買ってー」
自分の主張を通したい時は必ず俺の胸を叩いてくるのだ。
そんな姿を目の当たりにしてしまうと、俺は否応なしに「はいはい」と受け答えしてしまう。
まさに甘え上手。
だからだろうか、彼女のワガママっぷりはエスカレートしている気がした。
「はいはい。じゃあ、今から日向ぼっこしようか」
本当は今日の晩御飯を買いにスーパーに寄るところだったけれど、彼女が日向ぼっこをしたいと言うのであれば、俺に拒否権はない。
「いえーい!」
案の定、彼女は元気よく笑うとお尻から出ている細長い尻尾をくるりと丸めて駆け出していった。
俺はその姿に苦笑するとともに、四足歩行ではなく二足歩行で走り出したことに安堵する。
そう、彼女は……いや俺たちは人間ではなかった。
「ケモノ族」と呼ばれる、人間と動物の間の存在である。
見た目はほとんど人間だが、頭には周囲の音を聞き分けるためのケモノ耳がついており、尻には細長い尻尾、両手は猫の手をしている。
この国では「ケモノ族」にもある程度の人権は認められているものの、それは「人間らしい生活スタイル」をしていることが前提であり、人間とかけ離れた行動をとるとすぐに「人外」とみなされてしまう。つまり仲間に迷惑がかかるのだ。
だから、彼女が四足で走り出さなくてよかったと心から思った。
愛美は嬉しそうに走り回りながら、手頃な場所を見つけてゴロンと横になり、身体を丸めた。
俺もその近くに腰を下ろすと、彼女の隣で仰向けになって目を瞑った。
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