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あたたかな午後の昼下がり。
丘の上の大きな木の下で、さわやかな風に吹かれて眠る。
時折聞こえる彼女の寝息が愛おしい。
「ねえ愛美」
そう声をかけたのは、彼女が日向ぼっこで丸まった姿勢をとったせいで胸元があらわになっていたからだ。
さすがにピンク色のシャツ1枚だけだと、無防備なことこの上ない。
古くからの幼なじみで、いつから付き合ってるかわからないくらいの仲だけど、あくまで俺たちはプラトニックの関係だった。
それ以上進む場合は、子供をつくる時だと決めている。
とはいえ、俺の目の前で胸元の谷間をチラつかせながら眠る彼女の姿を見ていると、どうしようもない感情が押し寄せてきてしまう。
この辺りは、人間でも「ケモノ族」でも関係ない気はするが、それでも襲わないことが「人間らしい生活スタイル」を守ることでも重要だと思っていた。
「おーい、愛美。愛美ってば」
いくら声をかけても起きようとしない。
それどころか、俺を抱き枕代わりに抱きつこうとしてくる。
彼女の口から漏れ出る吐息が、首筋にまとわりついた。
俺は慌てて起き上がると、大声で叫んだ。
「愛美! お肉あるよ!」
「はにゃ!?」
彼女は頭の耳をピーンと立てて、起き上がった。
「お肉、どこどこ!?」
キョロキョロと辺りを見渡す姿に、俺はプッと吹き出さずにはいられなかった。
「ほんと、食い意地だけははってるなあ、愛美は」
そう言う俺に彼女は一瞬きょとんとするも、すぐにすべてを理解したといった様子で怒りだした。
「あー! もしかしてウソ!? ウソついたの!?」
「だって、こう言わないと起きないんだもの」
「ひっどーい!」
顔を真っ赤に染めてふくれっ面をする彼女。そんなところもまた可愛くてたまらない。
「ふんだ、陽太なんてもう知らないんだから!」
そう言ってツンと顔を背ける。
これまた、彼女の常套句だ。
「あはは、ごめんごめん」
俺は猫手で彼女の頭をなでながら謝った。
「私、そんなに食い意地はってないもん!」
「だから、ごめんて」
「やだ、許さない」
「今夜は肉料理にしてあげるから」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
「じゃあ、許してあげる」
やっぱり食い意地がはってるなあと思いつつ、ポンポンと頭を叩く。
端から見れば俺たちは、兄妹のように見えているかもしれない。
けれども、俺の中では彼女は最高の恋人で、一生涯のパートナーだった。
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