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「豚バラー、豚バラー、今夜は豚バラーと牛ロースー」
「豚バラー、豚バラー、今夜は豚バラーと牛ロースー」
愛美に合わせて歌をうたう。
案外、気持ちがいい。
メロディがなくて気取ってないところがいいのかもしれない。
俺は愛美と顔を合わせながら『豚バラの歌』を口ずさんで歩いて行った。
「豚バラー、豚バラー、今夜は豚バラーと牛ロースー」
「豚バラー、豚バラー、今夜は豚バラーと牛ロースー」
歌いながら歩いていると、愛美がクスクスクスと笑い出した。
「……どうしたの?」
「陽太って、歌へた」
「へ?」
「音痴過ぎて笑っちゃう」
「お、音痴!? いやいやいや、愛美もどっこいどっこいだと思うよ!?」
「私、そんなに音痴じゃないもん」
「音痴とか、そういう問題じゃなくて……。これ、メロディ関係なくない?」
「ああ、わかった。妬いてるんだ。私の美声に」
「………」
ああ、と俺は思った。
彼女にはこれ以上は何を言っても無駄だと。
「はいはい、じゃあそういうことにしといてあげるよ」
「じゃあってなによ、じゃあって」
「愛美は歌がうまいねえー」
「うわー、感情こもってないー!」
そう言ってポカポカと俺の胸を叩いてくる。
ついに俺はおかしくなってクスクスと笑いだした。
なんでもないことなのに、なんだかすごく幸せな気分だった。
「ねえ愛美」
再び俺は歩きながら、つぶやいた。
「なに?」
「これからも、ずっと一緒にいようね」
そうつぶやく俺に、彼女は
「うん」
と言って肩に顔を寄せた。
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