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5年前、私は飼っていた愛猫を病気でなくした。
幼い頃から、どんな時もずっと側にいてくれたロシアンブルーのマナ。
気品に溢れた青い宝石のような瞳と、少し微笑むような口元が愛らしかった。
いつも私が眠れなかった時はベッドまでやってきて、私の枕元に飛び乗ると丸くなって添い寝してくれた。
学校で友人とうまく関われなくて泣いていた時は、私の膝の上に乗って、“大丈夫?”と言うように円な瞳で私を見上げた。
マナは、私の大切なペットであり、一番の親友のような存在だった。
しかしある日、マナは突然病気にかかってしまった。
マナは病気になってから、いつもより甘えてくるようになった。
私はマナを可愛がり、懸命に看病したが、その甲斐虚しくマナは数日後に虹の橋を渡っていってしまった。
涙が枯れるほど泣き、助けられなかったことを悔やんだ。
やがて、冷たくなったマナを毛布でくるんで抱きかかえ、動物霊園へ連れて行き弔った。
やるせなさを感じながらも、私はありったけの愛と感謝を込めて、マナの瞳に似たネモフィラの花束を捧げた。
それから、マナが隣にいなくなってから5年の月日がたった今。
私は毎年欠かさずに霊園を訪れ、ネモフィラの花を花瓶に活けている。
今日もまた、貴女に沢山の幸せがやってきますように。
手を合わせて祈っていると、不意に後ろから声がかかった。
「ねぇ、それはネモフィラの花?」
声をかけてきたのは、目鼻立ちがすっきりしたとても美しく可憐な少女だった。
マナの仏前に活けられたネモフィラの花を見つめて尋ねてくる。
『え、はい、そうですよ』
「綺麗だね」
ネモフィラの花を瞳に映す少女は、どこか嬉しそうに微笑んでいた。
私は少女の綺麗な笑顔に一瞬気を取られたけれど、会話を続けた。
『そうですね、でもそちらのお花も綺麗ですね』
私は少女が抱える花束を見て、言った。
胡蝶蘭に似た小さくて可憐な紫色の花達。
すると少女は花束を見下ろして、コクリと頷く。
「大切な子にあげようと思って。
ハーデンベルギアっていうんだよ。
お気に入りなんだ。
これとっても良い香りだから貴女にも一本あげるよ」
そう言って少女は花束から一本花を抜き取って此方に差し出した。
大切な人のためのものを私が貰ってもいいものか、と躊躇ったが少女の優しい目を見ていると何故だか受け取りたいと思った。
ふわりと手渡され、折らないようにそっと握る。
『ありがとうございます。
お家に飾りますね』
そうお礼を返すと、少女は「こちらこそ、貰ってくれてありがとう」と笑い、花束を抱えて去っていってしまった。
それから、私はたった数分話した彼女のことを何故か忘れられなかった。
あの日以来、彼女にはもう何年も会えていないのに。
どうしてか、懐かしい気持ちが胸を満たすのだ。
『…綺麗な瞳だったな』
それはまるで、青くて、綺羅びやかな宝石みたいな。
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