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綾菜の母親の明子が住む今田家では、大樹の退院祝いのパーティが行われていた。
たくさんの料理とデザートを見た大樹は、すごく喜んだ。
大樹が振り返ると、笑顔の綾菜と、綾菜の隣で笑う瞬の姿がある。
今田の家に、瞬が居ることが、大樹は嬉しかった。
「急にお邪魔してしまい、すみません」
と、瞬が明子に謝ると、
「こちらは来ていただけて、嬉しいですよ」
と、微笑む明子。
ご飯を食べ終えた後、片付けを終えた明子に、
「今から大事なお話をしたいのですが、よろしいですか?」
と、真剣な顔で瞬が問いかけた。
「…え?あっ、はい…」
明子は、戸惑いながらも了承をしてリビングの大樹の元へ歩く瞬の後を追った。
「大樹〜。大樹とアキばあばに俺から話があるんだけど、いいか?」
瞬の問いかけに、「良いよ〜」と答える大樹。
ソファに明子と綾菜を座らせて、そのソファの前のラグの上に瞬は座り、膝の上に大樹を乗せた。
あぐらをかいたような体勢で、大樹と向き合うように抱きかかえる。
初めて向き合って座る体勢に、ちょっと照れくさそうな大樹の顔を、瞬は優しい眼差しで見つめた。
「あのな、大樹。俺がさ、パパになるって、どう思う?」
突然の問いかけに戸惑いながらも、
「うん…、パパかぁ…。」
と、真剣に考える大樹。
「…嫌か?」
そう聞かれた大樹は、
「嫌じゃないよ。嫌じゃないけど…」
伝えることを躊躇う様子の大樹に、
「正直に言って大丈夫だぞ」
そう優しく瞬が声を掛けると、
「嫌じゃないんだけどね、パパって、ずっとパパでいてくれるの?居なくならない?嫌わない?」
不安そうな大樹の顔を見て、瞬は胸が苦しくなった。
大樹に気づかれないように、綾菜が泣いている姿にも瞬は気付いた。
パパという言葉に戸惑いがあるのかもしれない。
良いイメージでは、無いのかもしれない。
もしかしたら、パパと呼んでいた実の父親を思い出すから戸惑うのかもしれない…。
色んな可能性を、瞬は考えた。
そして…、
「ずっと一緒だ。じゃあさ、俺のこと、お父さんって呼ぶのはどうか?」
「…お父さん?」
「そうだ。お父さん。…嫌か?」
「…お父さん…。お父さん…、か。うん、ぼくお父さんって呼びたい」
そう言って笑う大樹の頬を優しく撫でながら、
「大樹、俺達家族なるぞ!ずっと一緒だぞ!」
そう言って微笑む瞬に、大樹が嬉しそうに抱きついた。
「お父さん、ずっと一緒にいてね」
そう呟く大樹を、瞬は強く抱きしめた。
そんな瞬と大樹の様子を、嬉しそうに泣きながら見つめる明子と綾菜の姿があった。
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