大空を舞うおれさまのアリア

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「ウ~、いてててて……。なんだ、こんなところに木の根っこが。でもこんなものに蹴躓(けつまづ)いてすっ転ぶなんて、いくら町暮らしが長いからって、野生児育ちのおれとしたことが情けない。考え事で足元がおろそかになってたんだ。 ……へへっ、驚かせちゃってごめんな。あれ? 心配してくれてるのか、その顔は。あははは、ぺろりとなめてくれた。おや、おかげでなんだか、痛みも少しやわらいだようだぞ。サンキュ! だけどもう少し坐ったままでいさせてくれ。けっして歳だからじゃないぞ。ふうう、いてて……。 マーゴ、しかしきみはいい奴だなあ。素朴で、単純で、すごい楽天家で、恐れを知らない愛情過多で……。そのグシャグシャ、ヨレヨレの毛皮のなかは、世にもきれいなものでいっぱいだ。ほんとにいい奴、本質的に美しい奴だ。でもそんなきみが犬で、人間じゃなかったのは、ほんとうによかったと思うぜ。きみのためにな。 もし人間だったらそんなにいい奴はまあ、ろくな目に遭わないさ! きみが人間だとして、自然で単純な好意から一生懸命、まわりの人たちのために働くとするだろう。するとその人たちは、はじめのうちこそ感謝もしてくれるけど、そのうち慣れてくると、だんだんきみのことをただの便利なロボットのように感じはじめる。他人さまの態度や感じ方のことはまあいいさ。そもそもこっちがこのんでやってることなんだし。ただ悪いことにはな、そんな雰囲気のなかできみ自身もまた、自分が生きた人間なのか、ただのロボットなのか、だんだんあやふやになってくるってわけさ。ハハハン! これは悲劇だろ? マーゴ、だからきみはモフモフのワンコに生まれて、ひたすら生来の美しさに生きることができちゃって、それはもう、地上で最高に運がいいことなんだぜ! あーあ、うらやましいなあ……」
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