未知の道ゆく

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「……歩こうか、マーゴ……。日が暮れてしまう……。きみは迷い犬じゃなくて、捨て犬だったんだな……。 ああまったく、捨て犬なんて、口に出すのもいやな言葉だ。そんなむごい、無責任なことをするくらいなら、はじめから生き物と生活をともにしようとしないことだ……。はじめからまったく愛なんか与えないことだ。おれみたいに……。ええい、どこのどいつだろう。腹の立つ馬鹿! アホンダラ! 人間の面汚し! なんだってこんなことを。お前はいったい今どこで、へらへらしていやがる……。 ああそういえば、前に悪いうわさを聞いたことがあったぞ。そうだ、今思い出した。この近くの別荘地じゃ、滞在する夏の間だけ犬を飼って、秋が来て都会に帰るときには、犬を捨ててしまうことがたまにあるとか……。あまりにひどいうわさだから、ばかばかしいばかりで、とてもほんとだとは思えなかった。でもじつはそれも事実で、マーゴはそんな馬鹿な金持ちの被害者なんだろうか? だったらそいつ、今のこの子を見やがれ。まともに見れるのか?! ああこっぴどく裏切られ、こんなに瘦せ細って、それでもまだ人間を信じ切ってる無邪気な子を! ……なあマーゴ。怒ってもいいんだぜ? いや怒りなよ! 怒り狂えって! その隠し持ってるすげえ牙で! なんならおれに咬み付いてもいいぞ。おれもその裏切った奴と同じ、人間なんだから。八つ当たりでも、それはまだ筋が立つ部類だろう。骨までガリガリ齧り付いて、たとえついでに腕一本くらい食べちゃったとしても、きみときみの心の純粋さを食い物にした人間とどっちが罪ぶかいか、おれには正直よく分からんよ。はああ……」
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