リュックを背負って

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「ひさびさに大空に解き放たれ、悠々とワシのように遊んだわが心よ。すまないな、言いにくいことだけど……、やっぱりぼちぼち帰る時間だ。そうさ、フフッ、あの灰色の御影石(みかげいし)でできた町へ。フフフフッ、お仕事さまが大鎌を振るって追っかけてくる、あの日常ってやつへ……! だってしょうがない。この真っ青な空にも、もうすぐ”逢魔が時”って奴が降りてくる。気を付けようぜ。奴に取って喰われないように! あいつは怖い。あいつはぼんやりとスズメ色をした、ばかでっかい何かだ。とても強い。そして喰われてしまった奴は――モモンガーになるんだ! どうしてもそんな気がする。そうして人間をやめてしまったら、もう一生、町の明かりとのきずなは断たれ、星明りの森の奥で暮らすしかないだろう……。 なに? でももう少しだけ自由でいたい? よしよし分かった。そうだろうとも! それじゃあこの先の駐車場で落ち合うとしようぜ。お前はせっかく久しぶりに、その翼を広げることができたんだからなあ、わが心よ。職場ではいつも虐げられちぢこまっている、あわれな、でもとてもがんこに在り続けるわが詩人よ。はああああ……!」
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