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尚央のその言葉に拓眞は少しだけ陽菜に同情した。また、陽菜があの作り物めいた笑みを浮かべる羽目にならなければいいが。尚央は先程の女子の群がり様からも分かるように、イケメンで知的で将来安泰の医学生だ。恐らく、美男美女カップルとしてそれはそれは注目の的となることだろう。
「この前、親戚の女の子がうちに遊びに来たんだが、彼女が恋愛必勝法を教えてくれたんでな。ちょっと試してみようかと思っただけだ」
「何だそりゃ」
恋愛必勝法などというものがあるなら拓眞にも彼女のひとりやふたりはできていただろう。そして、その必勝法とやらを身に着けた尚央は鬼に金棒状態になってしまうかもしれない。拓眞はハーレムを築いている尚央を想像し、今も十分ハーレムか、と苦笑した。
「ちなみに、その必勝法って?」
「ああ。とある薬効のある植物の根を好きな相手に食べさせるんだが、どうやらその植物は引き抜かれる際に強力な音波を出して引き抜いた者を絶命させてしまうらしい」
「ファンタジーか」
「子供の言うことだからな」
何だ子供か、と拓眞は尚央に気付かれないようにため息をついた。拓眞に恋人はいないが、別に欲しくないわけではない。ただ、拓眞の所感として、恋愛とはするものではなく、落ちるものだと思っている。つまり、拓眞はまだ恋に落ちていないのだ。きっと恋に落ちれば、それなりに悩みもするだろう。
「程々にな」
陽菜を狙う者は多く、ライバルは多いが、尚央ならば陽菜も振り向くかもしれない。拓眞はちらりと陽菜の様子を窺う。彼女は広瀬川に向かって石を投げて水切りに興じている男子を周りの女子と一緒に見守っていた。その顔には相変わらず微笑みが浮かんでいた。
***
翌日、日曜日。拓眞は、今日は家の中でのんびりして過ごそうと決めていたのだが、彼がひとり暮らしをしているマンションに朝早くから襲来する者があった。その者は近くのスーパーで仕入れてきたと思しき食材を冷蔵庫にしまうと拓眞を真剣な顔で見つめて言った。
「うどんどんどどん」
「ターミネーターのBGMか」
「それでは、うどん作りを始めよう! おー!」
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