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「ふざけんな……!」
拓眞は怒りで目の前のマオウの首に手をかけようとした。だが、マオウは軽い動作でそれを避ける。
「これが幻想世界にはない科学技術の力。正直、侮っていましたわ」
マオウは悔しそうに唇を噛み締めている。
「ですが、まだまだこれからですわ」
マオウはじっと拓眞を見つめた。
「お前は姫を好いていますわね?」
「姫……陽菜のことか?」
マオウは怪しく微笑んで首肯した。
「手に入れたいでしょう? あんなぽっと出の男に取られたくはないでしょう? 姫を病にし、彼女を苦しめた張本人が、彼女の心すら操って自分のものにしているのですわ」
マオウの口角が上がっていく。
「陽菜の心を操って……」
「そう、それは媚薬の効果に過ぎませんわ。本当の姫の心とは違うかもしれない」
拓眞は俯く。陽菜は自分でもそうとは気付かずに、尚央に心を奪われているのかもしれない。そのような状況が許されていいはずがない。心の中で憤怒の炎が燃えている。
「俺は……陽菜を助けたい」
「そうでしょう、そうでしょう」
マオウは歯を見せて笑う。
「ならば、わたくしが今度は、お前のシャペロンになりましょう」
「マオウが……?」
「カミサマの加護を受け、さらにマオウの力添えもあるお前はいわば最強ですわ」
マオウはベッドから身体を乗り出して拓眞に顔を寄せる。子供とは思えない妖艶な迫力があった。
「わたくしもあなたに魔法アイテムを授けましょう」
「マンドラゴラの根か」
「そう、マンドラゴラの根。これを使えば、過去の効果を上書きすることができますわ」
「上書き……でも、そうしたら陽菜は」
「またカレーとやらを食べさせれば病気にはならないですわ。幻想世界の呪いは必ずひとつ解呪の方法があるんですの。よもやそれを当てられるとは思っていませんでしたが」
つまり、拓眞がマンドラゴラの根を使えば、尚央が使ったマンドラゴラの根の効果をノーリスクで打ち消せるということだろう。
「それと別の新しいアイテムも授けますわ」
そう言ってマオウは拓眞に手を差し出す。
「これは……」
「ふふ、どう使うかはお前次第。せいぜい楽しませてもらいますわ」
くつくつと笑うマオウ。彼女から伸びた大きく暗い影には、確かに長い角と悪魔のような巨大な翼が生えていた。今は人の姿をしているが、本当の姿は影に映る怪物なのかもしれない。
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