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次々と料理が運ばれてくる。どれも、見た目、味共に一級品だ。窓からの眺望、ピアノの旋律、どれをとっても非の打ち所がない。
でも、どれも味がしなかった。
「美味しいね」
そう言いながら、陽菜は笑った。好きな人と一緒に過ごせることへの幸福感を抱きながら。
「そういえば、今度、ルイボスの人達が同窓会をしようって」
「ルイボス……ああ、サークルか。久し振りに聞いたな」
陽菜達がルイボスのメンバーと最後に会ったのは昨年の十月の芋煮会の時だ。あれから一年が経ち、文系のメンバーは皆、卒業し、それぞれの職場で働いている。今のルイボスは後輩達が運営しているが、大半は知らないメンバーだ。
「そうだよ。今はもうみんな社会人だけど、今度、北稜大学に集まるんだって」
「そうか」
「ねえ、私達も同窓会に参加しようよ。私が退院したこととか私達の関係のこと、みんなにも知らせた方がいいと思うし」
「そうだな。たまには息抜きも必要か」
「うん。じゃあ、後でメッセージを送っておくね」
陽菜は嬉しそうだ。
「たっくんも来るかな」
「流石に僕達が参加したら来にくいんじゃないか。君は仮にも栗生を振った立場だし、僕は彼からしたら恋敵だ」
「うん、そうだよね……」
「もう、元の関係には戻れないと思った方がいい」
尚央は冷静に言った。
「栗生に潔く君を諦めてもらえるよう、わざとこっぴどく振ったんだ。そのために君に負担を強いたのは申し訳なく思っている。でも、そちらの方が栗生にとっても良かったんだ」
「うん。寂しいけど、仕方ないよね」
拓眞に告白させ、それを陽菜が断るというのは、尚央の作戦だった。尚央にとってそれは、勝負の場を整え、完全に拓眞を打ち負かすための必勝法だった。ギリギリまで引き付け、カウンターを喰らわせる。それが、拓眞に対する最適な勝ち筋だと尚央は考えた。
偵察も念入りに行った。拓眞に妹へのプレゼントを用意するためと嘘をついて彼を観察した。彼の感情を読み込んだ。拓眞が陽菜のことを好いていることを利用し、マンドラゴラの根の呪いの治療法を探させた。全て作戦通りだ。拓眞はもう二度と陽菜に近付かないだろう。
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