第三話 シャペロン

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「もうひとつのアイテム……」  拓眞はマンドラゴラの根を机の上に戻すと、今度は円錐状の硬い物体を手に取った。長さは三十センチほどあり、重量感がある。 「ユニコーンの角、か」  円錐状の物体には螺旋状の筋が入っている。どうやら、幻想世界にはヨーロッパの伝説上の生物が実在しているらしい。  マオウ曰く、その効果は「自分の気持ちに正直になる」らしい。いまいち、効果がはっきりしないが、飲ませた相手が自身の押し殺した感情などに素直に従うようになるらしい。マオウはユニコーンの角を虚心坦懐薬と称した。 『もし、お前の想い人が、橘尚央によって捻じ曲げられた恋愛感情を持っているなら、それを矯正し、本当に自分が好きな相手のことを想うようになりますわ』  拓眞の自宅で陽菜とうどんを作ったとき、陽菜は尚央のことをタイプではないと言っていた。その時には既に体調不良になっていたから、マンドラゴラの根を食べた後だったのだろうが、まだ理性は保っていたのだろう。マンドラゴラの根の効果は段階的に作用するようだ。だが、結果的に陽菜の心は無理に尚央に捻じ曲げられてしまった。それを矯正できるのがユニコーンの角というわけだ。 「これなら、陽菜の心を捻じ曲げるわけじゃない」  ただ、もしも陽菜の真の想い人が拓眞でなかった場合、陽菜が拓眞に恋心を抱くことはない。 「それならそれでいい。とにかく、今の異常な状態を何とかしたいよな」  陽菜の心を解放する。ユニコーンの角もマンドラゴラの根同様、煎じて飲むことで効果を発揮するらしい。 「いいんだよな、それで。それが陽菜のためだよな」  尚央とは違い、決して自分だけのためにやっているのではない。 「でも、陽菜は今、幸せ、なんだよな……」  マオウは言った。恋愛は人を幸せにすると。科学的に見て、尚央と恋人関係にある陽菜は今、幸福と言えるのではないだろうか。例え、それが歪められたものであっても。 「橘は優秀だし、誰からも一目置かれるような奴だ」  眉目秀麗、頭脳明晰、家柄も人当たりもいい。周りから見れば、陽菜とはお似合いのカップルだろう。 「でも、橘は陽菜の心を弄んだ」  拓眞は頭を強く振り、鞄の中にユニコーンの角を捻じ込んだ。 「そんなの許されない」  拓眞は寝巻を脱ぐと、私服に着替え、身支度を始めた。動きたくはないが授業がある。大学に行かなければ。その時、何の気なしにスマートフォンを手に取った。通知が何件か来ている。 「ルイボスのグループチャット?」  久し振りに動いているのを見た。もう十月だが、今年初だろう。今の代のルイボスメンバーは別のグループで連絡を取り合っているらしく、拓眞の入っているグループは拓眞の代のメンバーしかいない。皆、見知った仲だ。 「同窓会ねえ……」  陽菜に誘われて入会したルイボス、その同窓会。気になることはひとつだけだ。 「陽菜や橘は来るのか……?」  ひとまず、拓眞は静観することにした。
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