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「たっくんはちゃんと小麦粉の違い、意識してる?」
「はあ?」
「小麦粉は薄力、中力、強力の三種類があるけどその違い知ってる?」
拓眞はあまり料理をしない。学食やコンビニ、たまの外食で栄養を補っているため、正直陽菜の質問には答えられなかった。
「タンパク質の量が違うんだよ」
「へえ、そうなのか」
「薄力粉はタンパク質が少なくて、強力粉は多い。小麦のタンパク質はグルテンって言われてるんだけど、水と混ざって捏ねられると網目構造を作ってしっかりするの。たっくんが今、生地を踏み踏みしているのもグルテンのネットワークを作るためだね」
「なるほど」
「グルテンネットワークがしっかりしてるとコシのある麺になるよ」
「薄力粉はどう使うんだっけ」
「お菓子とか揚げ物だね。さっくりした食感が大事だからグルテンが少ない方がいいんだよ。一方でパンは膨らむから、パンクしないよう丈夫なグルテンが必要で、強力粉が最適」
「さすが詳しいな」
陽菜は料理も上手だし、何より食の研究者だ。農学部に所属しており、食品化学を専攻している。
「タンパク質は水と混ぜられれば強靭になる。人と人の関係も同じだよね」
「どうした突然」
「私達にはそれはそれは強靭なネットワークが形成されているだろうなと思ったわけです」
陽菜が何気なく口にした言葉は拓眞の顔をくしゃりと歪めた。陽菜は心底安心した表情を見せている。
「でも俺達の関係がバレたらヤバいの分かってるよな。俺みたいのがいたことが発覚したら男子は発狂するだろうし、女子からは好奇の目を向けられるぞ。俺は下手したら刺されるかもしれん」
「そこはほら、高校までと同じでね。私達の関係が露呈しないように上手くやればいいんだよ。今までも上手くやれたし、これからも上手くやれるよ」
陽菜は自分の容姿が優れていることを自覚している。そして自分が人気者であることも。周りからの期待を理解し、それに応えようとしている。だからこそ、拓眞とはこうして隠れて会っているのだ。
(陽菜に彼氏がいたら、この交流もおしまいだな)
脳裏に浮かんだのは尚央の顔だ。思い切って拓眞は聞いてみた。
「陽菜は彼氏とか作らないのか。ほら、橘とか、顔もいいし、頭もいい」
「うーん、かっこいいとは思うけど、タイプではないかな」
「そっか。陽菜のタイプって?」
「それは秘密です」
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