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外行きの陽菜は誰からも愛されるおひな様だが、素の陽菜も十分に魅力的だ。ただ、唯一の欠点を挙げるとすらならば、彼女は悪食(あくじき)だ。要するにいわゆるゲテモノと称されるような食物を好んで摂取したがる。先日食べたのは、豚の鼻だった(コラーゲン質でぶよぶよとしていて正直気持ち悪かった)。
「マジでそれ食うの」
「ハチミツと蜂の巣も用意したよ」
「蜂の全ての形態だけでなく、彼らの住まいや食料にまで手を……」
蜂にしてみれば堪ったものではないだろう。改めて日本人の食への貪欲さが窺える。
「ありがたく頂こう。貴重なタンパク源だよ!」
「今は飢餓の時代じゃねえよ」
うどんの熟成を待つ間、拓眞は陽菜と共にそれらに果敢にチャレンジし、そして散った。敢えて感想は述べないでおくことにしよう。
「んふふー、たっくんは優しいなあ。何だかんだ言いつつも一緒に食べてくれるんだから」
「カリカリしてた……カリカリ……」
口の中が何かの破片でざらつくが、唾と一緒に無理やり飲み込む。
「本当にお前これを外で出すなよ」
「分かってるよ。私のイメージを損なうんでしょ」
陽菜は彼女なりに自身の持つイメージを客観視できているようで、決して周りを失望させるような行動を取らないように徹底して自分を律している。時々、疲れないのかと思うが、彼女のキャラクターは言わば彼女の持つ外殻のようなものだ。軟らかい中身を守るための。
「おひな様でいるのって凄い疲れるんだよ」
そう言うと、陽菜はフローリングの床にだらしなく仰向けに寝転がった。長い髪が床に広がり、表情もどこか眠そうだ。この姿からはとてもではないが、「おひな様」を感じることはできない。
「どの辺が具体的に疲れるんだ」
「んー、そうだね。笑顔、かな」
「笑顔?」
「普通の人もある程度は笑い方を使い分けていると思うけど、私の場合、本当にひとりひとりに異なる笑顔を使い分けているよ。その人が望む笑顔を出せるよう心掛けているかな。笑顔は人を安心させるんだよ。安心した人は私を攻撃したりしないからね」
「それって俺にも?」
気になってつい聞いてしまう。すると、陽菜はとろけるようなふにゃっとした笑顔を見せる。
「ほんと、たっくんだけだよ、素の私を出せるのは」
「……」
無意識にそういうことを言われるので困ってしまう。前進も後退も許されない行進をさせられている気分だ。
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