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テーブルの上にふたり分のうどんを並べながら拓眞は言った。それとは別にタッパーに入った副菜も並んでいる。どうやら陽菜が自宅で手作りした野菜の煮物のようだ。
「もう、野菜も食べないとダメだよ」
「母親か」
「違うけどたっくんのお母さんからはたっくんの生活も気にするよう頼まれていますから」
「あっそう……」
拓眞と陽菜は家族ぐるみの付き合いだ。陽菜の両親は拓眞のことを信頼しているようで、陽菜のことを頼むと言われている。きっと悪い交友関係を築かないようにと心配しているのだろうが、拓眞自身がその悪い虫になることは一切心配していないらしい。
「さ、伸びないうちに食べよう!」
ふたりで合掌して「頂きます」。こんな現場を見られたら、間違いなく勘違いされるだろう。「え、同棲してるの?」と。
ずるりとすすったうどんはコシがあり、茹で加減が絶妙であった。つゆは出汁が効いており、顆粒出汁を使ったのとは別格の深みがあった。タッパーに入った煮物もまた素材の味が引き立つ薄味に仕上げられており、野菜も芯がないが食感はきちんと残っている絶妙な固さで陽菜の料理の腕に改めて感服させられる。
「うまっ」
「ふふ、良かった。七味あるよ」
自分は使わないのに拓眞の調味料を用意してくれる辺りに陽菜の優しさを感じる。ありがたく七味唐辛子をうどんに振りかけながら拓眞はぽつりと呟いた。
「ほんと、お前はいいお嫁さんになるな」
「えっ」
見れば、陽菜は驚いたような顔をしてこちらを見ている。それがやがて赤くなっていく。陽菜は色白のため、朱が入るとよく目立つ。
「もう、大げさなんだから」
「思ったことを言っただけだけど」
「……恥ずかしいこと言わないで」
そう言って手で顔を扇ぐ陽菜は自分がどれほど魅力的なのか本気で分かっていないようだった。
「でも、こうして私の食欲も満たせたし、たっくん様々だね。私だけなら消費しきれないし、踏む工程とか手伝ってもらえなかったらできなかったよ」
「それこそ大げさだろ。陽菜は俺以外にも友達が多いんだからさ」
「うん。確かに私の交友関係は広いよ」
それは陽菜から寄っていかなくても、周りが陽菜に寄ってくるからだということは知っていた。
「でも、浅く広く、って言うのかな。特定の仲のいい人はいないんだ。だから、たっくんは特別なの」
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