第一話 変性

2/34
前へ
/107ページ
次へ
 彼女らは、陽菜の周りに群れている男子達を一瞥して呆れたような表情を浮かべると、自分達は尚央を取り囲むようにして集まって来た。 「お疲れー。わ、美味しそう! 橘くん、ありがとう!」 「背高いから腰痛かったんじゃない。大丈夫?」  どう見てもしゃがんで火加減を調節していた拓眞には目もくれず、女子達はあからさまに尚央を労って冷えたビールを差し出している。 「いや、僕じゃない。作ったのは大半が栗生だ」 「ほんと? 栗生くんもありがとー」  そう言っておざなりに拓眞を労うと、すぐに女子の視線は拓眞から外れる。 (ま、そうだよな。橘の場合、女に寄っていかなくても向こうからやって来るからな)  陽菜に群がる男子、尚央にたかる女子、どっちもどっちだが、そのどちらの輪からも弾き出された形になっている拓眞は自嘲気味に笑う。 (仕方ないさ。俺は橘みたいにイケメンじゃないし)  拓眞は心情的に一歩引いて周りを見る。拓眞の容姿と言えば、かなり癖の強いうねった髪に、冴えない顔、細身な身体付き。背だけは175センチと高めだが、それだけだ。 (姫や王子を囲む輪に入りたくもない)  このサークルの名前はルイボスという。かつてのサークル長がルイボスティーを好きだったからという単純な命名であり、何をするサークルなのかというとイベントサークルという表現が最もしっくりくるだろう。季節ごとの行事や小旅行など、まさしくイベントを大学の仲間で楽しむ軽いノリのサークルだ。そして、そういったサークルには男女交流を目的にした者も集まりやすい。コミュニティに上手く溶け込めていないのは拓眞の方なのだ。  ならばなぜ、そんなリア充サークルに入ったのかと問われると、誘われたからとしか言えない。断り切れなかったのだ。それで尚央と出会うことができ、今ではいい友人となっているのだから後悔はないが、誘った当人の『あちこちに旅行に行けて美味しいものが食べられるらしいよ』という誘い文句には騙されたと思ったこともある(完全に嘘というわけではなかったが)。 (それにしても、あんなにニコニコと笑顔を振りまいて、頬が筋肉痛にならんのかね)
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加