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拓眞はちらりと横目で陽菜の方を見遣る。陽菜は男子に囲まれ、和やかに微笑みながら談笑している。あの可愛らしい笑顔が男子を虜にするのは分かっていたが、拓眞にはどうにもそれが作り物のように見えて仕方がなかった。美しい芸術品のようだが、見せることを前提にしているかのよう。
(ま、楽しんでるならいいけど)
今日のルイボスの集まりは半年振りくらいになる。皆、就活で忙しく、サークルにかまけている暇などなかったのだ。今日は内定式後の打ち上げという名目らしい。
(穏やかならそれでいいさ)
秋晴れの空に煙が立ち上っていく。
仙台名物・芋煮会が始まった。
「それじゃあ、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
仙台を流れる一級河川・広瀬川の河原に乾杯の発声が響いた。広瀬川は今、芋煮のシーズンだ。その多くが学生だろう。どこもかしこも芋煮を行うサークルやゼミのグループで溢れている。
拓眞は現在二十二歳。最近、ようやくビールの味にも慣れてきた。所属は北稜大学の四年生で卒業論文をまとめている真っ最中となる。今日はそんな忙しい日々の息抜きとして、ルイボスのイベントに参加している。
北稜大学は、宮城県仙台市に拠点を構える国立大学だ。理系は、医学部、薬学部、歯学部、理学部、工学部、農学部からなり、文系は法学部、経済学部、文学部、教育学部からなる総合大学で、日本の中でも偏差値の高い、優秀な大学として有名だ。南は沖縄、北は北海道、全国津々浦々から学生が集い、海外からの留学生も合わせて一万五千人ほどの在学者数を誇る。
拓眞は理学部に籍を置いており、尚央は医学部、陽菜は農学部に所属している。三人とも理系だが、この学部をまたいだイベントサークルの大半は文系学部の学生で構成されている。
「栗生はいいよな。まだ、大学生活が続いて」
ビールをちびちびとやりながら、芋煮を食べていると、他学部の男子学生が声を掛けてきた。彼の名前は篠宮(しのみや)英司(えいじ)だ。
「はは、まあ確かに、もう少しモラトリアムが続く感じはあるよ。そっちは来年の四月になったら就職だもんな」
「ああ、働きたくねー。もっと遊んでいたい! 俺も大学院に進学しようかな」
英司は頭を掻きむしっている。
「あのなあ、俺達理系は大半が大学院に進学するけども遊んでるわけじゃないんだぞ」
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