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大学を卒業した理系の学生の多くが修士課程に進み、大学院生となる。それは、大学の四年間という短い期間では、理系で学ぶべき素養を身に着けるのに時間が足りないからだ。就職するにせよ、アカデミックの道に進むにせよ、理系の素養を十分磨くことは必要だ。多くの企業にとって、大学を卒業した理系の学生の扱いは文系の学生と変わらない。大学院を修了しなければ、真の理系としては認めてもらえないのだ。
そして、大学院を修了するためには、各々が研究テーマを決め、その研究成果を論文として提出する必要がある。たった一冊の修士論文が、修士課程を修了できるかどうかに関わってくるため、多くの学生は必死になって研究データを集め、日夜実験に明け暮れることになるのだ。
「そりゃ分かってるけどさ。ああー、俺さあ、大学四年間、彼女のひとりもできなかったんだぜ。そんなの悲し過ぎない?」
英司の顔は赤い。どうやら酒にそれほど強くはないらしい。
「そりゃお前が趣味に遊びに夢中になってたからだろ」
拓眞は正論を返す。昨今の学生の中には特定の恋人を作らない者も多い。男女で遊びに興じることはあっても恋愛関係のように密接に関わるようになるのを厭う者が増えたと言えばいいか。自分のために時間を使う現代の若者の特徴だ。
「だって煩わしいじゃん。そんなことしなくても女の子とは遊べるし。でも何かこう、燃えるような恋もしたかったな、って今さらながら思うわけよ」
「はは……」
「笑ってるお前も彼女いない歴イコール年齢だろ。そこんとこどうなわけ」
拓眞は後ろで男女に取り囲まれている陽菜や尚央の方に視線が泳がないように注意しながらこう答えた。
「俺は、まあ、時が来れば?」
「何だそりゃ。独身で孤独死コースだな」
「勘弁してくれ」
「まあでも、俺も似たようなもんか。俺も『おひな様』みたいな子が振り向いてくれるなら考えたんだけどな」
英司の視線は陽菜に移る。「おひな様」とは陽菜の愛称のことだ。彼女には、まるで桃の節句で飾られるおひな様のように可憐で高貴なイメージがあることから自然に付いた名前だ。
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