第一話 変性

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「同郷ってだけで羨ましがられても困るんだけど」  主に男子からの羨望の眼差しを受けて拓眞は苦笑した。 「おーい、こっちカレー入れるぞ」  すると、山形風の鍋を見ていた男子学生がカレールーとうどんを手にして叫んだ。芋煮の締め方は様々あるが、拓眞のサークルでは、カレーうどんにするというのが恒例だった。 「桃瀬、いいのか」 「うん、十分食べたから大丈夫」  拓眞は陽菜にそう尋ねる。陽菜は辛い物が苦手でカレーをあまり好まない。 「あれ、おひな様は食べないの」 「私は、ちょっと……」  女子からの疑問に陽菜は困ったような笑みを浮かべる。 「まあ、ちょっと下品っぽいもんね。おひな様には確かに似合わなそう」 「えっと」  拓眞はフォローを入れる。 「桃瀬は辛いからカレーがあんまり好きじゃないんだ」 「へえ、栗生くん、よく知ってるね」  女子の感心したようなその言葉は、「栗生くんもおひな様のことをしっかりリサーチしているのね」という意味も孕んでいるだろう。 「たまたま、な」 「栗生くんもなかなか隅に置けませんなあ。おひな様に興味ありませーん、って顔しておきながら」 「いや、ほんと違うから」  そんな拓眞を見て陽菜が微笑む。陽菜は自分がどう扱われているのかをきちんと理解している。こんなやり取りも数多く見て来ているのだろう。それを陽菜がどう思っているのか拓眞には分からなかったが、そんなに気分のいいものではないのではないか、と拓眞なりに思っていた。 「なあ、栗生。桃瀬に恋人はいないのか」  拓眞が鍋にこびりついたカレーを水洗いしていると、隣でゴミをまとめている尚央が話し掛けてきた。 「さあ、いつもいないって答えるよな。何で俺に聞く?」 「何となく、栗生が一番桃瀬と仲が良さそうに見えたから」  拓眞は怪訝そうな顔を隠そうともせずに尚央に言った。 「おいおい、どこを見たらそうなるんだよ。別に普通だろ」 「そうか? 僕にはそう見えたんだがな」  はっきり言って拓眞の容姿は陽菜や尚央に比べれば、ぱっとしないだろう。陽菜のことも遠くから見ているだけで、取り巻きに加わったりはしない。はたから見て拓眞と陽菜の関係を取り沙汰する者は少ないだろう。 「まあ、いないならいないでいいさ」 「何だ、橘、お前も桃瀬狙いか?」 「どうだろうな。確かに彼女が恋人と言えば周りからは羨ましがられるだろうな」
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