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「同郷ってだけで羨ましがられても困るんだけど」
主に男子からの羨望の眼差しを受けて拓眞は苦笑した。
「おーい、こっちカレー入れるぞ」
すると、山形風の鍋を見ていた男子学生がカレールーとうどんを手にして叫んだ。芋煮の締め方は様々あるが、拓眞のサークルでは、カレーうどんにするというのが恒例だった。
「桃瀬、いいのか」
「うん、十分食べたから大丈夫」
拓眞は陽菜にそう尋ねる。陽菜は辛い物が苦手でカレーをあまり好まない。
「あれ、おひな様は食べないの」
「私は、ちょっと……」
女子からの疑問に陽菜は困ったような笑みを浮かべる。
「まあ、ちょっと下品っぽいもんね。おひな様には確かに似合わなそう」
「えっと」
拓眞はフォローを入れる。
「桃瀬は辛いからカレーがあんまり好きじゃないんだ」
「へえ、栗生くん、よく知ってるね」
女子の感心したようなその言葉は、「栗生くんもおひな様のことをしっかりリサーチしているのね」という意味も孕んでいるだろう。
「たまたま、な」
「栗生くんもなかなか隅に置けませんなあ。おひな様に興味ありませーん、って顔しておきながら」
「いや、ほんと違うから」
そんな拓眞を見て陽菜が微笑む。陽菜は自分がどう扱われているのかをきちんと理解している。こんなやり取りも数多く見て来ているのだろう。それを陽菜がどう思っているのか拓眞には分からなかったが、そんなに気分のいいものではないのではないか、と拓眞なりに思っていた。
「なあ、栗生。桃瀬に恋人はいないのか」
拓眞が鍋にこびりついたカレーを水洗いしていると、隣でゴミをまとめている尚央が話し掛けてきた。
「さあ、いつもいないって答えるよな。何で俺に聞く?」
「何となく、栗生が一番桃瀬と仲が良さそうに見えたから」
拓眞は怪訝そうな顔を隠そうともせずに尚央に言った。
「おいおい、どこを見たらそうなるんだよ。別に普通だろ」
「そうか? 僕にはそう見えたんだがな」
はっきり言って拓眞の容姿は陽菜や尚央に比べれば、ぱっとしないだろう。陽菜のことも遠くから見ているだけで、取り巻きに加わったりはしない。はたから見て拓眞と陽菜の関係を取り沙汰する者は少ないだろう。
「まあ、いないならいないでいいさ」
「何だ、橘、お前も桃瀬狙いか?」
「どうだろうな。確かに彼女が恋人と言えば周りからは羨ましがられるだろうな」
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