第三話 シャペロン

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「ああ、そうだよ! 無駄なんかじゃなかった。でも、『それでいい』って納得できるほど俺はできた人間じゃないんだ」  拓眞の頬を涙が伝った。それはぽとりと地面に落ち、跳ね散った。 「なら、続ければいいじゃない。そのための力はあげたでしょう」  カミサマはそう言った。 「だから、どうやってさ。これ以上やったら彼女の気持ちは……」 「じゃあ、ひとつだけ教えてあげる」  雨音が激しくなる。風も強い。もしかしたら、雷が鳴るかもしれない。 「シャペロンは僕だけじゃない。今回の件、他のシャペロンが関わってる」  カミサマの声は、小さく、雨音にかき消されそうだった。 「えっ」  耳を疑った。思わず拓眞は顔を上げた。 「それってどういう意味……」  それ以上の言葉をカミサマは紡がせなかった。微笑みを浮かべたまま、拓眞の唇に人差し指を押し当てると、もう一方の人差し指を自らの唇の前に立てる。 「これ以上は言えないよ」  どうして、という言葉を拓眞は飲み込まざるを得なかった。 「自分で確かめるんだ」  カミサマは言った。 「運命は時に残酷だ。君達人間を苦しめ、翻弄する。でも、そんな逆境の運命に自ら抗うからこそ、人間は前に進める。だからこそ、神というものは人間が好きなんだ」  カミサマは拓眞を背に歩き出す。 「醜く足掻くからこそ人間は美しい。その様を、可能性を僕に見せてよ」  カミサマは病室の扉を開け、外に出て行く。 「ちょ、ちょっと待てって」  拓眞は慌てて立ち上がり、カミサマが出て行った扉の外に出る。だが、辺りを見回してもカミサマの姿はなかった。まるで煙のように消えてしまった。  拓眞は大人しく病室へと戻る。  そして、そのまま荷物をまとめると、再び扉の外に出る。 「陽菜……俺は……」  拓眞が立ち去り、無人となった病室はまるで見送るように扉を閉じた。
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