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「え、いや、普通に入っちゃ駄目だろ。出てけ!」
「せっかく気を利かせてお前が起きるのを待っていてあげたというのに酷い言い草ですわ」
「俺の上に乗ってただろ!」
「この清潔感の欠片もない足の踏み場もない部屋の他のどこに待てる場所があると?」
「少なくとも俺の上じゃねえ」
「叫びますわよ」
「それはやめろ」
少女の恐ろしい脅しに拓眞は屈した。このままでは一気に犯罪者扱いだ。
「で、誰なんだお前は」
「ふ、よくぞ聞いてくれましたわ。わたくしは誰もが畏怖する幻想世界の王——マオウですわ!」
「……」
少女が何を言っているのか、拓眞には分からなかった。分からなかったが、同じような雰囲気を感じたので尋ねてみる。
「お前、友達にカミサマっている?」
「あんなやつ友達なわけないですわ!」
「そっか知り合いかあ」
「一括りにしないでくださいまし! カミサマは敵、にっくき敵ですわよ!」
マオウと名乗った少女はまるで威嚇する猫のように毛を逆立てている。
「でも、もしやと思って来てみましたが、やはりお前、カミサマに選ばれた者でしたのね」
マオウは拓眞のベッドの上にちょこんと座りながら腕組みをする。
「ああ、どうやらそうらしい」
「納得ですわ。道理でわたくしのマンドラゴラの根の解毒ができたわけですわ」
「マンドラゴラ?」
「幻想世界の魔法植物ですわ。抜くのに一手間かかりますが、マンドラゴラの根は媚薬として非常に効果が高い呪いのアイテムですわ」
「媚薬?」
「異性に使えばその者を虜にすることができますわ。ただし、欠点がひとつだけ」
「……?」
「使った相手を死の病に陥れてしまうことですわ」
マオウは得意げに笑った。
「駄目じゃん。死んじまったら意味ないだろ」
「そう思うと思いますわ。正常ならば。でも、人間は愚かですわ。相手が苦しむと分かっていても、相手を手に入れたい時、手段を選ばない者も多いのですわ。マンドラゴラの根は引き抜くときに叫び、その叫び声を聞いた者は死にます。それゆえ、幻想世界では高値で売買されておりますわ。それでも、需要は衰えることを知らない。まさしく、禁断のアイテムなのですわ」
マオウの言葉に拓眞は首を傾げた。
「さっきから何の話をしているんだ。ゲームか?」
「わたくしの故郷の話ですわ!」
どうやらマオウは短気らしい。
「わたくしの故郷の名は幻想世界。魔法や呪いが実在する、この世とは大きく異なる別次元の世界なんですの。わたくしはその世界でマオウとして君臨しているのですわ。崇めなさい、人間よ」
そうは言われても見た目は子供だ。拓眞は頭を抱える。カミサマも不思議な力を使っていたが、まだ理解が及ぶ範囲だった。だが、目の前の少女はまさしくファンタジーだ。
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