36人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
「その幻想世界ってのは何なんだ」
「幻想世界は、言ってみればこの世界とは鏡写しのような世界ですわ。この世界は科学技術が発達しているようですが、幻想世界は科学の代わりに魔法が発達していますの」
「魔法……? ゲームであるような炎の魔法とかを出すやつか」
「そういうのもありますわね。明かり、食べ物、水……人々の生活は全て魔法をもとに成り立っていますわ。この世界にはいない魔法生物……ほら、ドラゴンとかもいましてよ」
「ドラゴン? こっちじゃ伝説上の生き物だけれど」
「恐らく幻想世界の情報が一部伝わった結果、そういう逸話が生まれたのでしょうね。ふふ、何にせよこの世界よりも素晴らしい世界ですわ」
マオウは鼻高々に幻想世界について語っている。マオウということは、その幻想世界の一部を支配している存在なのだろう。自身の治める地を自慢したかったのだろうか。
「それで、そのマオウ様は一体全体何が目的なんだ」
「決まっていますわ」
ふふん、とマオウは笑う。
「この世界の人類を滅ぼし、征服することですわ」
まったく迫力がないが、とんでもないことを言っている気がする。
「幻想世界とこの世界は別次元に存在しますわ。でも、次元転移の術を使えばこうして行き来することが可能ですわ。こうしてマオウ軍を送り込んで徐々に侵攻を進めても良かったのですが、邪魔が入りましたわ」
「邪魔?」
「カミサマですわ。奴はこの世界を統べる神の一派。にっくき敵!」
どうやら拓眞の知らないところで世界は危機に瀕し、そしてカミサマに救われたらしい。
「弱いものは淘汰される。その不変の原則を奴は踏みにじったのですわ!」
「無茶苦茶な……秩序ってもんはないのか」
「ありませんわ。混沌こそ進化の礎。現状維持に甘んじるなんて愚の骨頂ですわ」
「カミサマに同情するわ」
「あら、そんな悠長に構えている場合ではなくてよ。カミサマもまた、弱肉強食、淘汰の摂理を重んじるものですわ。現に奴は今、人類の次の進化の形を模索しているのではなくて?」
そういえば、確かにそんなことを言っていた気がする。
「今の愚かな人類が滅び、代わりにマオウ軍が地球を支配する。素晴らしい進化の形ですわ。ただ、カミサマは人間に生き延びるチャンスを与えただけですわ」
「どういう意味だ」
「カミサマは人類に選択の機会を与えただけですわ。人類が愚かなら、マオウ軍に滅ぼさせる。人類に可能性があるなら、生き残らせる」
「あいつ、そんなこと何も……」
「ふふふ、言うわけないですわ。だって、何の情報もないまま人類がどう行動するのかを見たいのですから」
戦争に環境破壊、差別に偏見。人類の罪を挙げたらキリがないだろう。それら全てをカミサマは観察しているのだろうか。だとしたらカミサマの出す答えは自ずと決まってくるような気もする。
最初のコメントを投稿しよう!