前編「夫は高速ハイエンド承認欲求」

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翌日から、夫は犬を研究しはじめた。犬種ごとの性格を調べ、能力を比較検討してデータを集める。徹底的に、徹底的に…… ある日、夫はパソコンの前から立ち上がり、 「よし、完成だ!!」 叫ぶと家を出ていった。 「ああどうしよう。帰ってきたら、きっとあの人は犬だわ……」 私は考える。 犬になった夫を愛せるか。 私は犬好きだ。 私は夫が好きだ。 結論:私は犬になった夫も愛せる……。 「だいじょうぶ。彼が詩人でも画家でも、女性でも愛せた。犬でも愛せるわ」 ばーん!とドアが開いた。 私はにっこり笑って振り返る。 「おかえりなさい」 「「ただいま!! バウバウバウ」」 そこには、かわいい子犬を抱えた夫がいた。 「徹底的に研究したよ! きみの性格と犬種の性格をマッチングしてみたんだ。3万回のシミュレーションの結果、きみにぴったりの犬は――」 夫は白黒ぶちの子犬をかかげた。 「ジャーマンシェバードとパピヨンとシーズーとボーダーコリーの血が入った犬だ!」 「それってつまり、雑種ってこと?」 「バカを言うな! 雑種じゃない、ハイブリッドだ!」 夫は子犬に顔をすりつけながら、大声で笑った。 「やっとわかったんだ。世界中の誰に褒められても満足できない。きみに、褒めてほしいんだって」 詩人で画家で、完璧な女装ができるハイブリッドな私の夫が、そこにいた。 一周まわって、タダの犬バカ。でも世界一私を愛してくれている。 なんてステキなハイブリッド。 「ありがとう。こんなにステキなハイブリッドはないわ。ありがとう」 ふたり(正確には夫と犬)を一気に抱きしめた。 このあたたかさは、わたしだけのもの。 【了】 ※※最後までお読みいただき、ありがとうございました♡ このお話は、毎日公開中の140字ストーリーから展開したものです。 よろしければ、元ネタもどうぞ! 『140字、約束のない恋でもしようか』(20秒で読める超短編集です) https://estar.jp/novels/25936112 第470話「承認欲求、ステップあーっぷ!」 https://estar.jp/novels/25936112/viewer?page=470
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