前編「夫は高速ハイエンド承認欲求」

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前編「夫は高速ハイエンド承認欲求」

夫は承認欲求が強い。詩人としてデビュー後、もっと褒められたくて画家になった。才能があり、画家として大きな賞を受賞した。 「おめでとう」と言っても夫はむずかしい顔。 「気に入らない」 「何が気に入らないの?」 「もっともっと褒められたい。詩が分からない人にも、絵が分からない人にも褒められたいんだ」 「……どうやって」 ふと、夫はすれ違った女性にくぎ付けになった。華やかなドレスを着こなした美しい女性だ。 「あなた、どうしたの?」 「……アレだ。アレなら世界中の男に褒められる」 「え?」 その日から、夫は徹底的な女装をはじめた。 なんでも究極まで突き詰める人だ。メイク技術を学び、大金を使ってスキンケア。ファッションについても女性らしいしぐさについても研究しつくした。 そして、この世のものと思えぬ美女ができあがった。 二人で街を歩く。たちまち男性たちの視線が夫に集中した。 「今度こそ満足ね」 「満足、ではあるが想定内だ。まだ足りない。何が足りないんだろう?」 夫は路上で考え込んだ。 「なにかもっと、大きなホメ言葉が欲しい」 「世界中の人から褒められたいの?」 「いや、もっともっと大きなものから……」 夫の視線が、ふたたび釘付けになった。 「……アレだ」 「えっ?」 そこにはかわいい犬がいた。夫の考えを察知して私もドン引き。私も犬好きだけれど……。
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