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部屋を出たものの、行き先の当ては全くなかった。さまよい歩くだけだ。
駅前には交番もあるから、そちらへ行けば自首も可能だが、どうしても足が向かなかった。警察に出頭する勇気を、私は持ち合わせていなかったようだ。
反対側の住宅街を一時間くらい無駄にウロウロする間に、少しは冷静になってきて……。
結局、部屋へ戻ることにした。
「ドラマや小説でも、犯人は犯行現場に戻る、って話があるし。それと同じかしら」
自虐的な冗談が口から出るのも、現実逃避の一環なのだろう。
今は夫の死体が放置されているけれど、それでも、あそこが私の部屋であり、私の居場所なのだ。
警察のお世話になるにせよ、隠蔽する方向に走るにせよ、どちらにしても部屋へ帰るしかない。
そう決心したのだが……。
ドキドキしなから部屋の扉を明けた途端、驚いて腰を抜かしそうになった。
「よう、優子。今日は遅かったな。早くメシ作ってくれよ」
元気な夫の声に迎えられたのだ!
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