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私と入れ替わりに、夫が風呂に入ろうとした時。
服を脱いだ彼に対して、私は大声で叫んでしまった。
「えっ……。何これ……」
「どうした、優子?」
夫が不思議そうに声をかけてきたのは、あまりにも私の声が大きかったからか、あるいは私の態度や表情が尋常ではなかったからか。
いずれにせよ、私は彼に答えることも出来ずに、ただ一点を凝視していた。
彼の胸に、大きな傷跡があったのだ。ちょうど、手を当てれば心臓の鼓動が感じられる場所だ。
私の視線に気づいて、彼の方が言葉を続けた。
「どうしたんだよ、今さら。その手術痕なら、ずっと前からあっただろ?」
「嘘……」
彼にも聞こえない程度の小声で呟いてから、少しだけ視線を上げて、夫の顔を見つめながら聞き返す。
「手術痕なの、これ……?」
「よくわからないけど、そうだと思うぜ。俺も覚えてないから、よほど小さい頃の手術の跡だろ。そんな病気や怪我があったことすら記憶にないくらい、すごく小さい頃の話だ」
けろっとした口調で語る彼とは対照的に、私は恐怖で固まってしまう。
彼よりも私の方が、真実を理解していたからだ。
これは私が彼を刺し殺した跡なのだ、と。
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