弥生?

10/17
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ
「ほんとごめん!! 急いでるんだ!」  俺は人型の魂の手を音星の右足から力任せに外すと、目を瞑っている音星を立たせた。 「さ、早く行こう!」 「はい!」      俺たちは後ろで巻かれる煮え湯から逃げるために、走った。  火のついてない釜土が目に入った。  そこまで、走るとあることに気がついた。 「や、弥生??」  今まで音星の前方を走っていた。弥生の半透明な姿が見えなくなっていた。 「どこへ行ったんだろう? おい、弥生!!」 「弥生さーん!!」  俺と音星は弥生を呼んだが、返事すらもない。弥生を呼ぶ声は辺りの人型の魂の悲鳴によって、掻き消えてしまうのだろうか?  そうこうしているうちに、降り注ぐ煮え湯がすぐそこまで来ていた。滝のように降り注ぐ煮え湯が、俺たちの真後ろへ迫っていた。 「仕方ありません!! 火端さん!!」 「え?!」  音星は俺に手鏡を向ける。 「えい!」 「わっ! ちょっ! 待っ?!」  手鏡からの激しい光が俺の目を襲う。  俺は眩しさで目を瞑った。  辺りの人型の魂の悲鳴が聞こえてこなくなった。  変わりに、車のクラクションの音がする。    
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!