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同じ趣味を持つ相手の投稿写真や動画を眺めるうちに、感想を送り合う間柄となった。たまたま同じイベント会場にいることがわかって、好奇心から話しかけてみた。
到着してます、とスマートフォンに入力して通知すると、これから向かいます、との返信があった。
上階で開催されている、無料の企画展を眺めながら待っていた。会場に配置できないほどの大物──恐竜やアンモナイトなどの化石の価格に目をとめ、その高額にどんなひとが欲しがるのだろうと考えた。イベント会場から階段を上がる通路から、見覚えのある人物が歩いてくるのを認める。
年齢を尋ねたことはないので、外見だけで判断すると三十なかば、短髪は黒々としているものの額がやや後退気味だった。肌つやがよく、丸顔にやさしげに微笑む目を周囲に漂わせている。視線が向き、こちらに気づいた。
着慣れた清潔なコットンシャツに薄茶のスラックスの姿は、年齢よりも落ち着いた印象を受ける。もしかすると、推測よりも年高なのだろうか。
この前に会ったときはふつうに歩いていたはずだが、左足の調子が悪いのか、わずかに引きずるような、かばう仕草をしているのが気になった。
片手を上げ、笑顔で近づいてくる。
「おまたせしました」
頭を下げて、目尻に笑いじわを作る。SNSのアカウントで、相手は〝谷地〟と書いて、やち、と名乗っていた。本名かどうかは知らない。
「おひさしぶりです、谷地さん。お元気でしたか」
立ち止まると、相手は肩にかけていた鞄を担ぎ直した。周囲を見回して、答える。
「おひさしぶりです。まあ、相変わらず、ぼちぼちやってますよ」
歩き疲れたのか、ゆっくり左のアキレス腱を伸ばしている。
「いやあ、やっぱり人が多いですね」
「足、どうかしましたか」
ああ、と相手は困ったような苦笑を浮かべた。
「ちょっと痛めてしまって」
「そうなんですか」
「相手が悪かったんです。喧嘩に巻き込まれてしまって」
え、と思った。風貌や性格からすると、面倒ごとに巻き込まれるのを片っ端からよけて通りそうに思えた。どこかで、一方的に絡まれたんだろうか。
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