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「内包物がありますし、目に見えない微細な亀裂(クラック)がどのように入っているかわからないです。徐々に、内包する水は蒸発すると聞きますからね。とはいえ気が遠くなるほどの年月を経て、いまの状態です。我々との時間など微々たるもの、さほど神経質にならなくても平気だとは思いますが」 「──そうですか」  なるほど、と私は繰り返した。ふだんは気温の変動のない、乾燥のひどくない暗所で保管したほうが無難なようだ。  酒に口をつけて、谷地さんのコレクションを見回す。酒を片手に、他人からは理解しづらい嗜好を遠目で眺めて楽しむ。興味のない人からは、物好きと呼ばれる。  ふと考える。多少の加工は()されているとはいえ、つくづく不思議な体裁をしていると思う。  自然石なのに、べつのものに似て見える。人の心の為せるわざだとも言える。偶然にしては出来過ぎている。奇跡としか思えない。  白蛇の姿や人の顔が浮き出した石などは、過去に怪しげないわくを語られるものもある。この部屋には、供養を必要としそうな見栄えの石がずらりと並ぶ。なにも知らなければ、怖いと思う者がいても不思議ではない。 「だけどこれ、夜中に見たら不気味に思いやしませんか」  はは、と谷地さんは明るく笑う。 「石は石ですよ。もとは生物だった化石とも違いますし。恐竜やら三葉虫といった化石を見て、彼らの霊魂を思い起こすひともいないでしょう。人類の歴史よりもっと(ふる)いものに、人と通じ合う明白な意思が宿るわけもない」 「そんなもんですかね」 「あるとしても、まやかしです。おそろしさなどというものは、人間が見ていないところでは起こり得ない事象ばかりじゃないですか。人の心が作り出してるんですよ。すべてね」  淡々と言い切ると、パックの惣菜をつまんで口に放り込んでいる。
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