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ふと、部屋の片隅に置かれた小型の木箱に目を向ける。部屋に入ったときから気になっていた。ここにあるものはすべてが見渡せる。どこからでも見ようと思えば見えるように展示してあった。
あれだけ中が見えない。なにが入っているのだろう。
「谷地さん、あれって──」
指で指し示す。木箱はだいぶ古ぼけている。うっすら埃をかぶっているようにも見える。
骨董の茶器でも入っていそうな木箱だった。うっすらと木目が浮き出ている。側面に墨で筆文字が書かれているが、達筆すぎて読めない。
「なにが入ってるんです?」
素直な疑問で訊ねた。ほんのわずかな間、谷地さんから感情が抜け落ちたかのように見えた。
ああ、あれは、と口を開く。
「なにも入ってないですよ」
まだ、と続ける。「使ったことがありません」
妙な言い回しに聞こえた。まだ使っていないということは、これから使うつもりでもあるのだろうか。
「あれも昔、祖父からもらった……というか、受け継いだんです。でも、僕にとってはサイズが中途半端で」
立ち上がって歩み寄り、木箱を手に取る。
角がさりげなく丸められていて、なめらかな曲線に仕上げられている。側面に、雲のような木目が浮き出ていた。
上から片手の指先でつまみあげる。乾燥した木材だからか、想像より軽い。横に振る。なんの音もしない。
谷地さんも立ち上がって近づいてきたので、そのまま木箱を手渡した。
「蓋を下半分の箱の内側に差し込む形式なんですけど、やけに高さがあって、かっちりしすぎてるというか、経年の収縮のせいなのか、きつくて開けにくいんですよね。もらった当初は簡単に開いたんですが」」
両手で上下にひっぱるが、どちらかに歪んでいるのか引っ張れば片側が引っかかり、直すと反対が引っかかり、力任せに引いても無理で、左右に細かく揺らしながら引こうとすれば、少しは動きはするが一向に抜ける気配がない。
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