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「こんなんじゃ、しまったら最後、なかなか開けられない。気軽になかのものを見返せやしないじゃないですか。大切なものを入れるといいと言われましたが」 「大切なもの?」  苦笑しながら、谷地さんは箱をもとの位置に戻した。 「なんでも祖父は、入れたものと縁を繋いでくれる箱だとか言ってましたね」  肩をすくめている。  眉唾にしても、故人からもらったものを捨てるにはしのびなくて、と谷地さんはしみじみと語った。  (えん)──? まさか、まじないでもかけられた、いわくありげな箱なのか?  頭のなかで勝手に、木箱の存在に怪しげな意味を持たせようとしているのを察したのか、谷地さんが冷静に解説を加えた。 「幼少から変哲もない石ころをいくつも拾ってきては溜め込んでた僕に、家族はあきれ果ててましたからね。祖父は一計を案じたんだと思いますよ」  谷地さんとお祖父(じい)さんは、きっと通じ合うものがあったのだろう。孫に少なからず影響を与えたかもしれず、同好に関心を持つようになった谷地さんをかわいがり、今後の心配をしていたのかもしれない。  だから、それらしい箱を用意した。 「どんな趣味を持ってもかまわない。だが、周囲の理解が得られないならそこらに散らかしてないで、せめて他人様から見えないようにしまえってね」  他者には理解されにくい、風変わりな趣味。自分が大切にしているからと言って別段、だれもかれもに共感されなくてもかまわない。  在るものをそのままに受け入れれば、ぶつかりあうこともないから平静でいられる。  谷地さんが、理解ある昔からの友人のように感じられた。ほどよく酔って楽しげに語り笑い、つられて笑う。  いい気分だった。   
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