40年目の結婚記念日

彼女との出会い

足元を見ると紙が落ちていた。

『木村彩ピアノコンサート』

そう書かれた手のひらサイズの細長い紙にはコンサートホールの名前と今日の日付、開演時間、22列目19番という数字が書いてある。

スーツのポケットからスマホを取り出して『木村彩』を検索すると、パリ在住のピアニストだと出て来た。そして僕の手の中にあるものが今日のコンサートチケットである事がわかる。

コンサートホールを検索してみると、今、僕がいる場所の近くのようだ。つまり、さっきの彼女は木村彩のピアノコンサートに行く途中だったという訳か。

そこまで考えてハッとする。

チケットがここにあるという事は彼女は中に入れず困っているのではないか？　
ここで待っていればチケットを探しに来るだろうか？　腕時計を見ると開演時間まで15分しかない。地図にはここからコンサートホールまでは徒歩10分と出ている。

戻って来ていたら開演時間を過ぎる。届けてあげるべきだ。

スマホを見ながらコンサートホールに向かって歩き出した。