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彼女との出会い
気づいたら僕は路地裏に倒れていた。何をしていて、これからどこに行くべきだったのか思い出せない。
何か仕事があった気がしたのだが……。
「大丈夫ですか?」
倒れたままでいたら、上から声がした。
「あの……大丈夫ですか?」
耳の奥を優しく撫でるような心地良い声だった。
「まさか……死んでる?」
声の主が近づいて来て、仰向けに倒れている僕の顔を覗き込んだ。二重瞼の大きな目、小さな鼻、美しい唇。そして、長い黒髪。
初めて見るその顔を見た瞬間、心臓が強く締め付けられた。
「きゃっ!」
瞬きをすると、彼女がバランスを崩し後ろに倒れそうになる。素早く起き上がって彼女の両肩を支えた。
触れた場所から彼女の柔らかさと温もりを感じる。それから甘い香りも。
驚いたようにこっちを見る大きな目と合った瞬間、心臓がドキッ!
さらに心臓が強く締め付けられる。
ただ血液を全身に流しているポンプに過ぎない心臓が、こんな感じ方をしたのは初めてだった。この感じは一体何だ? 僕の身に何が起きたのだ?
じっと彼女を見ていると、「ありがとうございます」と小さな声で言って、彼女は僕から逃げるように駆けて行った。
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