狗神アプリ

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杏里のときと同じように名前を打ち込む。呪いたい動機は「キモいから」にした。どうして欲しいかは「今すぐに心臓発作」にした。 ちゃんと呪いの牙を使用選択してから、狗神クンに呪いをお願いをする。 狗神クンは口を大きく開けて「牙をありがとう! 呪ってくるワン!」と吠えて。また画面から消えた。 「これで、本当に呪いかどうかわかる。もしあのオジサンが呪われなかったら適当に逃げたらいいや」 ここは人も多い繁華街だし、無理矢理に如何わしい場所に連れて行かれることもないだろうと思った。 ふうっと一呼吸置いてから足早に部屋に戻る。 すりガラスの向こう側。人の気配がした。 「なんだ。オジサンまだ生きているじゃん。呪いってやっぱり偶然」 口では不満気に言ってみたけれど、内心は安堵していた。 とにかくこれで真偽がはっきりした。早く荷物を取ってこの場から逃げようと思ったその瞬間。 スマホが震えた。 「っ!」 画面を見ると。 『MAYUさんの呪いは成就されました。おめでとうございます。利用規約により一週間に一度、狗神クンにご褒美の贄をよろしくお願いします(前回の贄がまだです。行き違いがあり既に贄を捧げたあとだったら申し訳ありません)』 ──この文章が来たってことは──。 すりガラスの向こう側をみると中の人影が突如、妙な動きをした。ゆらゆら動いたかと思うと小刻みに揺れる。そして、防音対策をしている部屋の中から「ぐぅぅっ」と、まるで犬が唸るような低い声がしてドタバタと影が暴れ出した。 「──!」 あまりの生々しさに声が出ない。 一歩後ろに下がる。 影が暴れてもがいて。どしんと重い音がして。それっきりだった。 「ウソでしょ……?」 恐々、震える手で扉を開くとオジサンが胸を掻きむしって床に倒れていた。 「ひっ!」 思わず足がすくみ、逃げ出したくなるが。 狗神クンの呪いは本物だと言うことが分かった。 「は、ははっ! 贄を捧げないと私が呪われてしまうっ!」 これはもう偶然なんかじゃないと思い、自分の鞄を掴み。床に転がっていた財布を素早く鷲掴んで一心不乱にカラオケ店を後にした。 はっ、はっ、はっ、と息が上がる。 それでも足を止めることが出来ず、闇雲に街中を駆けて。駆けて。走って。 ふと視界に入ったコンビニのガラス窓に大きく口を開けて、ギラついた目の自分と視線があった。 それは呼吸は荒く。 ハッ。 ハッ。 ふっ──……。 ハッ。 ハッ。 まるで──卑しい狗みたいだった──。
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