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「――くん、りつきくん」
静かに揺さぶられ、オレは瞼を押し上げた。
「璃月くん」
「……ゆう?」
「え? 授業始まっちゃうよ」
寝ぼけて何か口走ってしまったらしい。何度か瞬きをして覚醒を促す。
「こんなとこで寝てたら風邪引くよ」
桜の木にもたれるオレを、クラスメイトの池田莉子が心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫だろ? あったかいし……」
そう言ってから、ハッとする。
ずっと感じていたむくもりは、春の木漏れ日のせいだったのだろうか。
それだけじゃない気がするのは、夢をみていたからかもしれない。
内容は覚えてないけど、とても幸せな夢だった――
「璃月くん?」
我に返ると、くりくりとした目がこちらを見ていた。
思えば中学校で知り合ってから、彼女はやけに構ってくる。
「あのさ。なんで下の名前で呼ぶの?」
前々から思っていたことを尋ねると彼女はさらに目を丸くした。
「えっと……嫌だった?」
質問してるのはこっちなのに、逆に問い返されてしまう。
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