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……馬鹿だな。
本当は、いつも気にしてるくせに。私にとってはそれが彼との唯一の繋がりだから。
桜貝をそっと取り出す。と、あの頃の眩しい気持ちが一気に押し寄せて私は目を閉じた。
これは私の宝物。彼からの、最初で最後の贈り物。
初恋の証。
璃月さんの、形見だから。
7年前、璃月さんは永遠に会えない人になった。それは、あまりに突然で。
まだ中学生だった幼い私には残酷すぎる報せだった。
あのときの悲しみは、今も心に突き刺さったまま……
璃月さんと夕ちゃんがふたりきりで出掛けたあの日。
「あっ……」
その帰り際、何気なくポケットに手を入れた璃月さんが声を上げ、あたしはその手元を見つめた。
ゆっくりと引き出される拳。そっと開いた手のひらに乗っていたのは淡いピンクの貝殻だった。
ふっ……と笑う気配がして、あたしは璃月さんを見上げた。
貝殻を見つめる、穏やかな微笑みがそこにあった。
夕ちゃんを見つめているときと同じ表情に、胸がしめつけられる。
「遥さんにあげる」
「えっ?」
璃月さんは、右手をあたしの前に差し出した。
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