もう届かないのに。

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目を開けて、辺りを見渡した。 世界はこんなに美しかったっけ?  歪みも澱も、何もかも全て真白に染め変えられたみたいで。   驚くほどに、息がしやすくなった。 だけど、誰も彼もが透り過ぎていく。 話し相手はいない、ただ一人佇むだけ。 淋しいけれど、仕方がないことだ。  焦がれた自由と引き換えに、大切な人達とはお別れしてしまったから。  でもね、たまに君の横をすれ違う時があるの。  『久しぶり』なんて、笑顔で手を振ったって君には届きもしないのに。  愚かな私は君を見かける度に振り返ってしまうの。 君は、この世界で唯一、 どうしようもない私を愛してくれた人。  そんな君の心の声がワタシの中に染み込んでくるからさ。 君はいつも“私”の名を呼んでくれる。 何度も何度も強く。  嬉しくてね、身勝手だけど、淋しくなるんだ。    だってもう、“私”はどこにもいないのに。  それから、沢山たくさん泣いた形跡が君の魂に刻まれているのが見えて。  とっくの昔に枯れたと思ってた透明な雫が頬を撫でた気がしたの。 哀しいって、心が震えた気がしたの。 ほんと、今更こんな感情抱くなんて…。 だけど、考えちゃうんだ。 “ねぇ、置いてってごめんね。 これからは、ずっと側にいるよ。”  そう伝えれたら、どんなに良かっただろうって。   “私”は救われたくて必死だった。   ワタシは『自由』を得られたはずだった。 でも、フェンスから先へ越えてしまった時、   アスファルトに咲いて散った瞬間、 “私”は『君』を失ってしまったのだろう。
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