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同窓会の案内状が届いた
カードには
『十二年ぶりですね』
って書いてあった
そう、みんな平等に
30になったっていうこと
わたしは、きっとまだ……
おかあさんが言うには
ここのホテルは
オムレツとナポリタンが
開業当時からの味で人気らしい
海に面してるし、いい景色
早く着いたので
ちょっとのつもりで
カフェで寛いでいたら
見慣れた3人がカフェに入ってきた
席についたので
真後ろに立って
ちょっといたずら
テーブル揺らして、水を零した
ぁ〜、洋服にもかかっちゃた
『酷い!』
でも、あなたたち
わたしに
もっと酷いこと
してたよね
このくらい
どうってことない
会いたい人いたけど
誰も、わたしを見ないし見えない
透明人間だから
帰る
振り返ったら
テーブル大騒ぎ
指差すなんてお行儀悪い
誰って、あなたたち
見えなかったのよね
ずっと、ずーっと
わたしはずっとわたしです
わたしは漂っていた薄ら暗闇の中で
母の声や、たまに聞こえる父の声
好きだったショパンや
音楽会の録音のわたしのピアノ
隣のまーくん、まーくんパパママ
色んな音が聞こえていたけど
最近母の怒りの声を聞いた
『同窓会ですって!!
よく出せたわねあんなことして
あなたを追い詰めたくせに………
よくも!よくも!!!
十二年ぶりですねって、よくもよくも………』
母の混乱した乱雑な、そして不安定な涙声が高くなり低くなり、ようやく収まった頃
思い出したように
会場のホテルのことを
話したのだった
子供の頃、観覧車に乗ったあと
プリン・ア・ラ・モードを食べたところだ
わたしは思い出したことを
母に伝えようともがいたけれど
体はものすごく重くなって
目は瞼がくっついたようだ
なぜだろう
ここはどこだと思ったら
思い出の観覧車に飛び乗って
近くにある
あの、プリン・ア・ラ・モードのお店の中にいた
ああ、わたしだけ
時が止まっていたのだ
わたしはわたしの時を動かさなければ
そう思ったとき
あの、3人がそこに現れた
わたしは渾身の力を振り絞って
テーブルを揺らして
水を零してやった
離れて振り返ったとき
驚愕の3人の顔があった
誰?、わたしよ
ほんとうに『久しぶり』
わたしは透明人間だったけれど
彼女たちには
見えたらしい
その時、母の呼ぶ声がして
観覧車に飛び乗ると
元の
療養所のベットにいた
今まで見えなかった母の顔や
父やまーくんが
そこにいた
『見えるの!!見えるの!!わかるの?!』
母の耳障りだけれど
温かい声が聞こえた
わたしは笑いたかったけれど
なにも動かせなかった
でも、
昏睡という
引き籠もりから
わたしはようやく
自分のドアを開けた。
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