脚のない犬は幸せ募る

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「危ないよ」  僕は彼女とのドライブデートの時に呟く。これはふと出た言葉。前の車が急ブレーキを踏んだからそう言う。  横に座ってる彼女は当然驚きそして僕のブレーキで前に倒れそうになっていた。それでも僕のほうを見て無事を確認している。その表情には少し疑問が有るみたい。  急ブレーキだった前の車は障害物を避けたんだろう。それは僕にもわかっていた。ちゃんと見えていたから。 「今の、犬だったよ。もしかして轢いたの?」  障害物の正体までは僕にはわかってなかったけど、車の左側だったので彼女からは良く見えていたはずなので間違いないだろう。 「俺は避けられたよ。そっちから見えない?」 「暗くて」  窓を開けて見てもらおうと思ったけど、彼女はドアを開けて外に出た。しかし辺りが暗いので良くは見えないらしい。  彼女が降りているので、僕も車を降りて確認に向かおうとする。スマホのライトを点灯させた。 「本当に犬だったの? ゴミの間違いじゃない?」  歩き始めると彼女が直ぐに横に寄り添って「違う」と話す。  その時に歩いている僕たちの後方でドアの閉まる音がする。恐らく前走車の運転手も確認に降りたのだろう。これなら相手に任せても良い。だって、僕が見たのは前の車がその障害物を踏んだところだから。 「仔犬だ。まだ生きてるね」  彼女の言う通りそこには犬が居た。しかし、タイヤで踏まれ後ろ足がつぶれてしまっている。 「救けないと!」  僕の肩を揺するように彼女が言う。だけど、これは僕たちの出る幕じゃない。今背後から訪れる前の運転手が担うべきだから。  そう思って僕は立ち上がると振り返る。前の運転手は免許を取ったばかりのような若い男の子だ。僕が振り返ると顔面蒼白で立ち尽くしていた。 「俺じゃない!」  急にその若い子は僕に対して言い放つと駆け出して車に乗り込む。当然僕はその彼を追った。 「おい! 逃げるのかよ!」  車の窓ガラスを叩いたけれど、若い彼は僕のほうを見ないでアクセルを煽り車は進める。 「逃げられたよ。どうしようか?」 「どうしようかって救けないとだめでしょ!」  落ち着いている僕に対して彼女は少し気が動転しているみたい。ちょっと彼女の横にしゃがんで話をしよう。 「轢いたのはさっきの彼だよ。僕たちに責任はない」 「そんなひどいことはできない。放っといたらこの子は死んじゃうよ!」  その時の彼女の瞳には涙があった。  一応僕だって冷血人間ではないつもり。この話は彼女に確認したのだ。確かに救けないとって思っている。  それでも面倒なことだ。相手が犬だと事故の責任をさっきの彼に追及もできない。そしてこの犬が野良なら治療費の捻出方法もない。 「わかったから腕を離して。トランクに綺麗なタオルがあるから包んであげよう。まだ動物病院も開いてるところはあるだろうから」  ずっと彼女は僕の腕をギュっと掴んでいた。ちょっと重たいくらいに。彼女はちょっとハッとして僕の腕を離す。  僕が彼女に指示を出すと、彼女は走ってもうタオルを持って仔犬を抱き抱えた。ちょっと僕のことを見直した顔をしながら。  そして僕は近くの動物病院をスマホで探している。平日の夜がまだ深くない時間。どうにか開いているところが有って電話連絡する。  彼女は痛みでキャンと鳴く犬を優しく抱いて車のリアシートに座る。仔犬にこれ以上痛みを与えない為。 「直ぐに連れてこいってさ。急ぐから抱っこしてあげてなよ」  電話をすると治療は快諾されたので僕は車を進める。 「この子、首輪してる。飼い犬なのかな?」  流石に救急車ほど急げない。仔犬も車の振動で時々痛そうに鳴いている。  彼女はそんな仔犬をあやしているときに首輪があるのに気付いたみたい。  これは一つの問題の解決になる。
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