脚のない犬は幸せ募る

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 飽きるほどに彼女は仔犬の写真を撮った。因みにその内には仔犬をにこやかに抱いている僕の姿もある。 「よし! これで友達にこの子を飼ってもらえるか聞こう!」  帰り道、彼女が話してる。写真はこう言う使い方のためでもあったのだろう。 「だけど、難しいと思うよ」 「君は協力してくれないの?」  笑顔と怒りの半々みたいな表情がある。器用なもんだ。 「わかってる。僕の友達にも聞くよ。だけど、期待はしないでくれよ」 「うん。わかってる。私たちもだけど、その友人の金銭的なところは似たり寄ったりで、犬を飼うほどの余裕のある人は居ない」 「それも前足がない仔犬なら更にだ」  難しさは彼女もわかっているみたい。それでも頑張るのは彼女が優しいからだろう。でもそれが彼女の欠点でもある。  僕たちはそれぞれの家に帰った。もちろんそれからも連絡は取るが基本は仔犬の話題になる。当然引き取り手が見つからないと言う連絡だ。  犬を飼う余裕のある人を目指して僕は様々なところに連絡をする。友人の、そのまた友人。子供の時の旧友。実家のご近所。会社の上司にまで。  一週間の時間が流れても仔犬の引き取り手は見付からないで困る。 「もう私たちで飼おうか?」  にこにこと笑っている彼女の言葉。冗談を大いに含んでるのは読めた。 「二人とも賃貸のワンルームでどう飼うってんだ。現実を考えないと」 「だよねー」  仔犬の経過は順調で退院も近いらしい。動物病院と連絡を取っているのは僕。だから彼女にはちょいちょい状況報告をしていた。 「それで、問題として治療費のことなんだけど」  今日はこの話をするために会っていると言うのも過言ではない。まあ、休みの日はデートとして殆どあっているのだが。 「決心はついてるよ。私が言い出したんだから、貯金から払う!」  無鉄砲で口だけの人じゃない。彼女はこんなの。どこかの物語と同じだけど損ばかりをしている。親に似ているのかは知らないけど。  彼女がきっぱりと言うので僕は「じゃあお願い」なんて言えるはずもない。 「動物病院からの請求もかなり安くなった。僕も半分負担するよ」  これは僕も覚悟をしていたこと。だから今日は財布がいつもより分厚い。これを好きに使えたら良いのに。 「文句を言いながら最後にはそうするんだから。良い人なんだね」 「君ほどじゃないよ」  これは呆れてる言葉。甘々な褒め合いじゃない。 「だけど、引き取り手のほうはきちんと探すように」  僕が釘を差さないと彼女は面倒ごとを全部引き受けてしまいそう。なので僕は強い言葉を使う。彼女が口を尖らせても。  それから僕たちは動物病院を訪れる。獣医師からは「またいらしたんですね」と彼女が言われてる。どうやらあれから暇が有ると仔犬を見に訪れているらしい。これは惚れてるな。  苦々しくも僕と彼女は全く責任のない大金を動物病院に支払った。だけど、これも仔犬のため。仕方がないことなんだ。 「引き取り手のほうはどうですか?」 「芳しくありません」  僕と彼女も連絡を取ってなかった人まで連絡してかなりの人数に声をかけているが、良い返事なんて一つもなかった。 「一応保護団体の人に問い合わせたのですが、そちらも難しいだろうとのことなんです」 「そうなりますよね」  誰だって飼うなら障害を持ってる子じゃないほうが良い。それは当然だ。 「だけど、保護団体のほうで暮らせることもありますから」  それからも暫く仔犬と遊んで獣医師と相談する。  納得はできないが動物病院を離れる。  世の中あんまり良いものでもないらしい。
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