ペンション花の事件簿

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チラッとショールに身を包んんだ津田を見ると そっと手で指し示して 「私・・奥さんが・乱れた服を直しながら  湖からこっちに駆け寄ってくるところを見ました。  ちょうど、その頃  子供の様子を聞くのにベランダに出て電話をしてたもので・・  津田さん・・手に何か持ってました・・  なんか・・こう・・・重そうな・・」 「それはこれですか?」 その一言で一同は石田の掲げているもの・・トロフィを見た。 それには血がついていた。 「あからさまに・・」 津田はつぶやくと妻の肩を抱き寄せた。 物騒な話しを聞いていた波瑠は不安そうに帆の向こう側に立っていたが その口元は口角がわずかに上がっているのを夫の帆だけは確認していた。 と、石田が無駄にうなづきながら促した。 「room1のお次は・・」 「初めまして。私共はroom3の西野と申します。」 動きが緩慢な老夫婦である。 夫婦揃って微笑みが長く糸を引くようだ。 一同は夫婦の次の言葉を待った。 が、ただただ微笑みだけが静寂を支配している。 「あの・・・」 口を開いたのは酒井(おっと)だった。 「第一発見者はオーナーですよね?  釣りをしていたのは僕だけではありません。」 その言葉を皮切りに宿泊客は思い思いに意見を発し始めた。 たちまちリビングは犯人探しの言葉でいっぱいになった。 その全てがオーナーの帆に向けられている。 ところが当の帆は呑気にコーヒーを味わって その美味さに頭をふるふる揺らしている。
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