ペンション花の事件簿

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場違いな空気感の帆は 集中した視線が沈黙した頃合いで 軽くマグカップを上げて波瑠を見た。 全員の視線が誘導され今度は波瑠に視線が集まる。 と、石田が言った。 「波瑠さん、どうですか?」 「そうね・・」 波瑠は、顔にかかる前髪を人差し指と中指に挟むと斜めに下に流した。 長いまつ毛がほのかに笑っている。 「まず、  夫の帆がトロフィを凶器にする事はないです。  私たちの息子のものでもあるし  競技経験者ならそのトロフィを得る成績が  いかほどのものかわかると思いますが  その価値は色々な意味を含む事も考慮しても  凶器には相応しくないです。」 すると、津田(おっと)も 「ほんと凄いですよ!  私も触らせてもらえる機会をいただいて感激でした!」 目を輝かせている。 本当に裏表がなく人を殺すようなタイプに見えない。 「津田さんの奥さん・・あの日・・」 「ええ。  あたくし、あそこのヨガスポットに行ってましたの。  湖水の反射と高原の清涼感があたくしのヒーリングですの。  ・・・・そしたら・・あたくし・・アレを・  見つけてしまいまして・・アレはほら・・  そうしたら、あちらにパトカーが・・  コレ・・  ・・そのトロフィーにはあきらかに夫の指紋がついてますし  あたくし・・気がついたら・・  でもなんだか・・怖くなって・・  投げ捨てたんですの。」 『まじか・・』その場の誰もが声にならない思いを抱いた。 「・・・バカだな。」 津田(おっと)だけは愛おしそうに妻の肩を抱き寄せた。 そして着衣の乱れは ウエアに羽織ったショールと上着のせいだった。 「酒井さんは、、帆  ボートの貸し出しはどうなってるの?」 「旦那さんは一日レンタルで、出発は奥さんと一緒だね。」 「と、いうことは2人の影は奥さんと2人のね。」 「はい。私、旦那さんに中央の鳥居の船場で降ろしてもらって  神社を参拝してから遊覧船で帰ってきました。  部屋に御朱印があります。」 一同なんとなくうなづきあった。 「で、帆。  room2の宿泊客は?」 「予約では昨日から一泊の予定だったんだけど・・」 「そこで西野さんご夫婦に質問です。  石田さんは部屋番順に話しを聞くとおっしゃいました。  あなた方はroom3です。  なぜ、room1の次がご自分だと思ったのですか?」 「それは、、隣に座っていたので、、」 波瑠は隙を与えることなく続けた。 「room1の酒井さんとroom4の津田さんは向かい合う位置です。  room1の酒井夫妻の隣の角に西野夫妻が座っています。  そして石田刑事に呼ばれてリビングに集まったのは4組の夫婦です。  room1の酒井夫妻とroom4の津田夫妻の間に  もう一組夫婦が座っています。うちの庭師夫婦です。  うちの庭師夫婦もまた、酒井夫妻の隣です。  お互い誰がどのroomに宿泊しているかはわからない。  それなのに西野さんはroom2の確認をせずに  すぐ自己紹介を始めました。」 老夫婦は揃って、笑っているのかそうでないのか読み取れない表情で 波瑠の話しを聞いている。 「room2を飛ばしたのは  room2の宿泊客がいないのをご存知だからです。」  
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